日本語要旨
田井竜一
2005〜2006年度に実施した、京都祇園祭りの南観音山の囃子についての調査報告である。概況、担い手、曲目と笛の旋律パタン、囃子の機会、楽器とその奏法、演奏の実際(身体動作、掛け声・囃子言葉、囃子の工夫)、口唱歌・譜、伝承過程、囃子の変遷と意味付け、南観音山における囃子の特色という項目にしたがい、詳細な記述をおこなっている。
南観音山で注目すべき事柄は、囃子方の運営が組織的で、極めて良くまとまっていることである。また、音楽的な面からすると、自然で素直にながれていく囃子といったものが、南観音山の囃子の特色であるといえよう。さらに、「戻り」の曲が「拾番集」と「番外集」とにわかれていて、原則的に「つなぎの囃子-拾番集の内の〈壱番〉〜〈四番〉−番外集-つなぎの囃子」という形で構成されること、曲と曲の間に挿入される「つなぎの囃子」が細かく規程されていること、鉦・太鼓のリズムパタンと笛の旋律パタンの間に生ずるズレが、他の山鉾と比べてあまり目立たないことが特筆される。
祇園祭りの他町の林と比較すると、笛の旋律パタンは、全般的に月鉾と極めて良くにている。一方、いわゆる「上げ」が曲目の導入部にくみこまれていることや、実質的に2曲1組でグループをつくっている曲目の存在、譜本の表記法からは、函谷鉾や鶏鉾(さらには笛方がでむいていた北観音山)との共通点もうかんでくる。月鉾・函谷鉾・鶏鉾をはじめとする京都祇園祭りの各囃子との詳細な比較検討が、今後の課題となろう。
キーワード:祇園囃子、祭礼囃子、山・鉾・屋台の祭り