日本伝統音楽研究センター

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京都祇園祭り 南観音山の囃子

凡例

日本語要旨

0 はじめに

1 概況

2 担い手

3 曲目と笛の旋律パタン

4 囃子の機会

5 楽器とその奏法

6 演奏の実際

7 口唱歌・譜

8 伝承過程

9 囃子の変遷と意味付け

10 南観音山における囃子の特色

謝辞

文献資料

音響資料

映像資料

English summary 英語要旨

 

 

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5 楽器とその奏法


種類・編成
使用する楽器は、鉦(摺り鉦)、太鼓(短胴枠付き締め太鼓)、笛(能管)である。鉾の上の囃子および山鉾巡行時の編成は、鉦 6、太鼓 2、笛 8である。

鉦は合金製の摺り鉦である。現在本番で使用しているものの寸法は、凹面直径20センチメートル(内径16センチメートル)、凸面直径16.9センチメートル、高さ5.5センチメートル(「百」の刻印、平成2年(1990)製作)である。また、かつて本番で使用した昭和7年(1932)製作の同寸法のものを、練習用に使用している(「南」の刻印、本番用のものは、これを基準に新しく製作)。その他、「南観音山 昭和五十七年 寄進 酒井清三」銘の鉦等もある。

鉦
〔写真14〕 鉦

鉦は、上部の突起左右2点をとおした紐でつりさげ、それを鉾の桁からたらした布にむすびつける。上部の紐の両方を左手で保持し、右手にもったカネスリとよぶ角(つの)撞木で、鉦の凹面をうつ。カネスリの柄は10年程前まではクジラの髭製、頭の部分はシカの角製であったが、現在柄は樹脂製のものが多くなっている。宵囃子および山鉾巡行時には、奏者のカネスリをもつ手の甲には長い房をとりつけているので、カネスリをうごかす度に房が上下し、一つの見せ場となる。鉦・鉦の房共に保存会持ちであり、カネスリは個人持ちである。

太鼓は短胴枠付き締め太鼓であり、2個1組で使用する。これを向かい合わせになるように、木製の台の上にまっすぐ設置し、太鼓方2名がそれぞれ2本の木製のバチでうつ。太鼓の大きさは、直径35.5センチメートル(内径25.1センチメートル)、鼓高5.5センチメートル程度である。バチはヒノキないしはホオノキ製で、寸法は長さ約30センチメートル、直径約3センチメートルである。太鼓は保存会所有で、バチは個人持ちである。なお、山の上では、腰掛けを使用する。

太鼓
〔写真15〕 太鼓

太鼓の調べ緒をしめる
〔写真16〕 太鼓の調べ緒をしめる

笛は、昭和39年から能管を使用している。それ以前は、町内所有の竜笛を使用した。さらに大昔は、篠笛であったという。なお、山鉾巡行時には、細長い装飾布(かつては笛袋およびその房)を腰の角帯から下にたらす山鉾があるが、南観音山ではそのようなことはおこなっていない。笛ならびに笛袋は現在個人持ちである。

配置
巡行時の楽器の配置は、正面に太鼓方、進行方向右側の欄縁に鉦方、左側の欄縁に笛方である。なお、太鼓はそれぞれ左右の欄干の近くに、お互いにかなりはなれてすわる。これは山の真中に楊柳観音を安置しており、それを良くみせるためだとおもわれる。太鼓のリーダー役の位置は、南観音山では特にきまっていない。太鼓のリーダー役は、囃子全体のリーダー役でもある。笛方および鉦方のリーダー役は、それぞれ列の先頭にすわる(列の前後で囃子がみだれることがあるので、列の最後にもヴェテランを配置する)。個々の奏者のすわる場所については、現在では前述のように、囃子方会の幹事(囃子方代表幹事・笛方責任者・太鼓方責任者)による評価・合議にもとづき決定する。

奏法
鉦はすべて凹面をカネスリでうつ。その奏法には、1)凹面の真ん中打ち(口唱歌では「コン」と表現)、2)縁の下部をうってからカネスリを上にはねる、いわゆる跳ね打ち(「チ」)、3)縁の上部打ち(「キ」)、4)縁の下部をうってからカネスリを下方にはらう、いわゆる払い打ち(「チン」)の4種類がある。

鉦の奏法
〔写真17〕 鉦の奏法

太鼓の奏法には、大バチ(強くうつ)、小バチ(やや強くうつ)、押さえバチ(ひびかないように、バチをおさえるようにうつ)、両押さえバチ(押さえバチを、両方のバチでハの字型にしておこなうもの)がある。なお、他の山鉾にみられるような、バチを小さくふりあげて、トレモロ風に細かにうつ奏法(いわゆる「きざみ」)は、南観音山では伝承していない。この他、「飾りバチ」といって、「右手のバチで鼓面を軽くおさえる―左手のバチを右肩の辺りまでふりあげ強くうつ―右手のバチで大バチをうつ」という一連の動作から構成される、装飾的な動作もみられる。なお、人によっては、太鼓のバチをまるでおどるように左右にふる「躍り」の奏法があるが(月鉾の「おどる」と共通〔田井・増田 2000〕)、これは比較最近の事であり、以前には無かったという。

太鼓の奏法
〔写真18〕太鼓の奏法

祇園囃子における笛の調子には、一般に高い調子(いわゆるセメ)と低い調子(いわゆるフクラ)がある。南観音山では以前は両者が混在していたが、現在では高い調子を原則としている。笛の運指法は以下のようであり、口唱歌と対応している。「ブ」・「ウ」(全孔押さえ)、「フ」(第6孔のみあける)、「ト」・「タ」(第5・6孔以外おさえる)、「ヒャイ」(第4〜6孔をあけ、第2孔を開閉する)、「ヒ」(第1・2・7孔をおさえる)、「ホ」・「ロ」(第1・2・7孔をおさえる、低い方)、「ラ」(第1・7孔をおさえる、低い方)、「ピ」(第1・4孔をあける、ヒシギ(強い息をふきこむことによる高い音)。また、良く使用されるフレーズとしては、「タウラ」、「タウタウラ」、「ヒヤラ」、「ラロラロ」、「ヒャヒャイ」などがある。さらに、笛の奏法では、山の稜線のように、音が起伏をもちながら滑らかに連続することが望ましいとされている。

笛の奏法
〔写真19〕笛の奏法

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