6 演奏の実際
掛け声・囃子言葉
掛け声・囃子言葉は、間をとる意味でも重要なものであり、囃子の一部とさえいわれる。これがしっかりでていないと、鉦はうてていないとみなす程、重要視されている(たとえば、〈七番〉の中盤で掛け声をださないと、鉦がまごついてしまう)。また、掛け声と共に笛の旋律をおぼえておくことが、後に太鼓や笛を習得する時に、大いに役だってくる。大きな声でかけることが肝要とされるが、残念なことに、近年では掛け声・囃子言葉の頻度が少なく、声の大きさも小さくなってきている。
よく使用される掛け声には、「ヨオイ」(「ヨオイー」)、「ソレ」(「ソーレー」)、「コノ」(「コーノー」)、「ハ」(「ハー」)、「マダ」(「マーダー」)、「マダジャ」(「マーダージャ」)、「ドッコイ」、「ヨイヨイ」、「ソコソコ」、「ソコセ」、「エーイ」、「ヒ・フ・ミ・ヨ」が、囃子言葉には、「トコヨイ」、「ヨオイ ヨイ」、「アーコリャコリャ」、「アードッコイ」がある。
囃子の工夫
祇園囃子では巡行の時間が長いので、必然的に同じ曲を何回もくりかえすことになるが、一回りの最後と最初とのつなぎ目がスムーズにいくような構造になっている。また、曲目の転換を順調におこなうために、戻りの曲の冒頭には、曲と曲との接続を容易にするための「上げ」とよばれる部分をつける(詳細については、「3.曲目と笛の旋律パタン」参照)。これらの工夫によって、長時間におよぶ囃子が可能となっている。
また、囃子にメリハリをつける工夫もみられる。渡りの場合に、冒頭とほとんどの曲目の替わり目にはやす〈渡り 地囃子〉は、その一例である。〈渡り 地囃子〉はまた、他の渡りの曲と違って、何回でもくりかえすことができるので、時間調整の役割もはたしている。さらに、曲と曲の間に挿入される「つなぎの囃子」も、構造上どうしてもいれなければならないというものではなく、目先をかえる、変化をつける、メリハリをつけるといった演出のレヴェルと同時に、囃子全体の時間調整や、太鼓のリーダー役が次にはやす囃子をかんがえる時間として利用されるなどの機能をもったものとかんがえられる。なお、前述のように、つなぎの囃子は、鉦・太鼓のリズムパタンと笛の旋律パタンの長さのズレの解消にも寄与している。
太鼓方は囃子を統率する役割をはたす。曲目の選定をおこなうと共に、曲のテンポや構成を設定する。同時に、その人の個性が最もでるのが太鼓方である。太鼓がわからなくなったら、「まちがっても良いから、とめないように」といわれる。太鼓わからなくなっても、大抵の曲はリズムパタンがきまっているので何とかなるが、こまるのは特殊なパタンが多い渡りの曲であるという。
次曲にうつるないしは囃子を終了することを、「あげる」という。戻りにおける曲目の選定・伝達は、太鼓のリーダー役が口頭でおこなう。曲目の途中で「あがって! 地囃子!」という風につなぎの囃子の名称を伝達し、つなぎの囃子の途中で「壱番、翁!」という形で次曲を伝達する。また、他曲と間違えやすい曲(たとえば〈月〉と〈長月〉)については、「お月さんやで」などと言葉をそえたり、あるいはジェスチャーで月を表現するなどして補足する。必要に応じて、他の囃子方が復唱する。次曲の名称が伝達されると、前曲を1回はやして次曲にうつる。なお、他所でやっているような、笛のヒシギ(「ピー」という高音)で囃子を強制停止させることはない。あげるか、最後まではやすのかのどちらかで対応する。