日本語要旨
田井竜一
2006〜2007年に実施した、京都祇園祭りの放下鉾の囃子についての調査報告である。概況、担い手、曲目と旋律パタン、囃子の機会、楽器とその奏法、演奏の実際(身体動作、掛け声・囃子言葉、囃子の工夫)、口唱歌・譜、伝承過程、囃子の変遷と意味付け、放下鉾における囃子の特色という項目にしたがい、詳細な記述をおこなっている。
放下鉾の囃子の基本の曲は、祇園祭りのいくつかの山鉾と同様、〈地囃子〉である。また、曲目には、必ず2曲1組としてくみあわせてはやされるものが多数あることが、放下鉾の囃子の大きな特色である。〈地囃子〉の重視や実質的に2曲1組でグループをつくっている曲目の存在は、函谷鉾・鶏鉾(さらには笛方がでむいていた北観音山)・南観音山との共通性を想起させる。これらの山鉾をはじめとする京都祇園祭りの各囃子との詳細な比較検討が、今後の課題となろう。また、放下鉾独自の内容をもつ楽曲があることや、囃子言葉の頻度が高いことも、放下鉾の囃子の特色となっている。
そして放下鉾で最も特筆すべき事柄は、囃子方には祭りを、そして囃子をたのしもうという意識が強いことである。同時に、囃子をつづけていき、囃子の伝承を確固たるものにすることが何よりも大事であり、そのためにこそ改革は必要なのだという強い信念がある。二階囃子の見学会の実施や囃子方のインターネットによる公募など、祭りや囃子をよりひらかれたものにしようとする志向が顕著なのはその表れである。
キーワード:祇園囃子、祭礼囃子、山・鉾・屋台の祭り