0 はじめに
筆者らは、1997年度から1999年度にかけて、京都府の文化財保護課が実施した京都府民俗芸能緊急調査に参加し、祇園囃子の調査をおこなうことができた。残念ながら、その際は時間的な制約から、詳細な調査・報告は四条通りの一番東側からの3ヶ所(長刀鉾・函谷鉾・月鉾)のみとなった〔田井・増田 2000〕。そこで筆者らは、京都府の調査の終了後も、個人的な形で調査を継続することにした。ほぼ毎年1ヶ所ずつ調査をすすめ、将来的には、祇園祭りにおいて囃子をはやしている、すべての山・鉾・傘鉾の調査を実施する予定である〔田井・増田 2004、2005a、2006、田井 2007〕。
本稿は、2006〜2007年におこなった放下鉾の調査報告である。放下鉾の囃子および慣習には、祇園囃子の他の山鉾とくらべてユニークな事柄が多い。また、放下鉾の囃子方には祭りをたのしもうという意識が強く、一方で二階囃子の見学会の実施やインターネットによる囃子方の公募など、祭りや囃子をよりひらかれたものにしようとする志向が顕著である。本稿では、囃子に関する基本的なデータを提出すると共に、そうした面にも注目することにしたい。