5 楽器とその奏法
種類・編成
使用する楽器は、鉦(摺り鉦)、太鼓(短胴枠付き締め太鼓)、笛(能管)である。鉾の上の囃子および山鉾巡行時の編成は、鉦 6、太鼓 2、笛 8である。また、練習時には、鉦 10、太鼓 4、笛 不特定数となる。
鉦は合金製の摺り鉦である。現在本番で使用しているものは、平成13年(2001)に新調したものである(「平成十三年新調 放下鉾」の銘)。鉦の寸法は、凹面の直径19センチメートル(内径15.3センチメートル)、凸面の直径16.5センチメートル、高さ5.5センチメートルである。放下鉾には、文化・文政期(1804〜1830年)の銘のある鉦があり、現在のものより一回り小さい。
鉦は、上部の突起左右2点をとおした紐でつりさげ、それを鉾の桁からたらした布にむすびつける。上部の紐の両方を左手で保持し、右手にもったカネスリとよぶ角(つの)撞木で、鉦の凹面をうつ。カネスリの柄は10年程前まではクジラの髭製、頭の部分はシカの角製であったが、現在柄は樹脂製のものが多くなっている。宵囃子および山鉾巡行時には、奏者のカネスリをもつ手の甲には長い房をとりつけているので、カネスリをうごかす度に房が上下し、一つの見せ場となる。鉦・鉦の房共に保存会持ちであり、カネスリは個人持ちである。
鉦は、上部の突起左右2点をとおした紐でつりさげ、それを鉾の桁からたらした布にむすびつける。上部の紐の両方を左手で保持し、右手にもったカネスリとよぶ角(つの)撞木で、鉦の凹面をうつ。カネスリの柄は10年程前まではクジラの髭製、頭の部分はシカの角製であったが、現在柄は樹脂製のものが多くなっている。山鉾巡行時には、奏者のカネスリをもつ手の甲には長い房をとりつけているので、カネスリをうごかす度に房が上下し、一つの見せ場となる。鉦・鉦の房共に放下鉾祇園囃子保存会持ちであり、カネスリは町持ちである。
〔写真23〕 鉦とカネスリ
太鼓は短胴枠付き締め太鼓であり、2個1組で使用する。現在使用している太鼓は、平成18年(2006)に新調したものである(「平成十八年新調 放下鉾」の銘)。太鼓の寸法は、凹面の直径19センチメートル(内径15.3センチメートル)、凸面の直径16.5センチメートル、高さ5.5センチメートルである。バチはヒノキないしはホオノキ製で、寸法は長さ33.5センチメートル、直径2.6センチメートルである。
太鼓は向かい合わせになるように、木製の台の上に斜めに設置し、太鼓方2名がそれぞれ2本の木製のバチでうつ。なお、練習時および鉾の上では共に、腰掛けを使用する。なお、現在は練習時に台の上に太鼓をのせ、腰掛けにすわってうっているが、昭和40年代までは、てれんに台をつけ、正座してうっていた。また、調べ緒をしめる時には、他町でも時々みられるような、調べ緒の結び目を上にとびだたせるやり方をする(写真24・25参照)。太鼓は町内所有で、バチは練習用は町持ち、本番用は個人持ちである。
〔写真24〕太鼓とバチ
〔写真25〕鉾の上での太鼓
〔写真26〕太鼓の調べ緒をしめる
笛は、昭和39年から能管を使用している。それ以前は、町内所有の竜笛を使用した。さらに大昔は、篠笛であったという。なお、山鉾巡行時には、細長い装飾布(かつては笛袋およびその房)を腰の角帯から下にたらす山鉾があるが、放下鉾ではそのようなことはおこなっていない。笛ならびに笛袋は現在個人持ちである。
〔写真27〕笛方の座り方(写真提供:永井崇博氏)
配置
巡行時の楽器の配置は、鉾正面にむかって左側の欄縁に鉦方、右側の欄縁に笛方、鉾後方に太鼓方である。太鼓が後方正面に位置しているのは、放下鉾の場合、前方正面に稚児人形を配置し、かつ人形を操作する稚児方がいて場所が狭いからである(曳き初めや鋒の上の囃子など、稚児人形を配置しない場合は、太鼓は前方正面に位置する)。太鼓のシン(責任者)の位置は、鉾正面にむかって右側(笛方に近い方)である。太鼓のシンは、囃子全体の責任者でもある。笛方および鉦方のシンは、それぞれ列の先頭にすわる。また、列の前後で囃子がみだれることがあるので、3番目、6番目という風に、1つおきに囃子をしっかりとはやせる者を配する。個々の奏者のすわる場所については、現在では前述のように、技量や練習への出席数等によって、会長・副会長および太鼓方・笛方のシンによる評価・合議にもとづき決定する。
奏法
鉦はすべて凹面をカネスリでうつ。その奏法には、1)凹面の真ん中打ち(口唱歌では「チャン」と表現)、2)縁の下部をうってからカネスリを上にはねる、いわゆる跳ね打ち(「チ」)、3)縁の上部打ち(「キ」)、4)縁の下部をうってからカネスリを下方にはらう、いわゆる払い打ち(「チン」)の4種類がある。なお、〈戻り上げ〉の鉦において、チの後に下おさえで上にあげる動作がある。
〔写真28〕 鉦の奏法
太鼓の奏法には、オオバチ(バチを大きくふりおろす)、コバチ(バチをバウンドさせてうつ、〈地囃子〉にのみ使用)、トメバチ、カケバチ(右バチを鼓面でおさえている時に、左バチを右肩にのせる)、スリバチ(〈獅子牡丹〉の2行目の「チャチャ」の所や、〈獅子〉、〈乱〉で使用)などがある。また、左右にバチをふるような動作もある。太鼓では、手首をいかし、スナップをきかしてうつことがとても重要とされる。放下鉾では、太鼓に強弱をつけることを重視している。
〔写真29〕太鼓の奏法
笛の指遣い(運指法)は、笛の歌口から近い孔から順番に番号を付してしめすと以下のようであり、口唱歌と対応している。全孔閉じ(口唱歌でいうと「フ」)、第1・2・3・4・5・7孔閉じ(「ウ」)、第1・2・3・4・5孔閉じ(「ブ」)、第1・2・3・4・7孔閉じ(「ヒャ」)、第1・2・3・7孔閉じ(「ヒャイ」)、第1・2・7孔閉じ(「ホ」)、第1・7孔閉じ(「ハ」)、第2・3・4・5・6・7孔閉じ(「ギ」)、第2・3・5・6・7孔閉じないしは第1・3・4・7孔閉じ(「ヒー」)、第1・2・4・5・6・7孔閉じ(「ヒ」)。放下鉾においては、能管本来の奏法を重視しているという。なお、場合によっては、ヴィブラート奏法もみられる(特に笛だけの部分)。
〔写真30〕笛の奏法