日本伝統音楽研究センター

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京都祇園祭り 放下鉾の囃子

凡例

日本語要旨

0 はじめに

1 概況

2 担い手

3 曲目と笛の旋律パタン

4 囃子の機会

5 楽器とその奏法

6 演奏の実際

7 口唱歌・譜

8 伝承過程

9 囃子の変遷と意味付け

10 放下鉾における囃子の特色

謝辞

文献資料

データベース

音響資料

映像資料

English summary 英語要旨

 

 

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10 放下鉾における囃子の特色

放下鉾の基本の曲は、祇園祭りのいくつかの山鉾と同様、〈地囃子〉である。渡りにおける〈渡り〉は、戻りの〈地囃子〉を分解したものであるし、戻りでは通常囃子をはじめる時に冒頭ではやす他、基本的に次曲との間に〈地囃子〉をはさんではやしていく形態をとる。

また、曲目には、必ず2曲1組としてくみあわせてはやされるものが多数あり、それらは〈男蝶(壱)〉・〈参〉・〈五〉との組み合わせと、それ以外の独自の組み合わせとに大別できることは、放下鉾の囃子の大きな特色である。〈地囃子〉の重視や、実質的に2曲1組でグループをつくっている曲目の存在は、函谷鉾、鶏鉾(さらには笛方がでむいていた北観音山)、南観音山との共通性を想起させる〔田井・増田2000、2004、2005a、田井2007〕。いずれにしても、これらの山鉾をはじめとする京都祇園祭りの各囃子との詳細な比較検討が、今後の課題となろう。

囃子言葉の頻度が高いことも、放下鉾の囃子の特色となっている。たとえば、〈渡り〉では、長くのばした囃子言葉の「ソーレー トーコートー トーコーヨーイ ヨーイーヨーイー」が全編にわたってとなえられ、〈戻り地囃子〉では冒頭に「ハア ヤットコ ヨイトコ ヨイトコナ」という囃子言葉がつく。

また、放下鉾独自の内容をもつ楽曲がある。たとえば、〈長鳩〉の鉦は、全て真ん中打ちするという特異な内容になっていると同時に現在、鉦をまわして凸面を連打するという、祇園囃子の他所ではみられない奏法をおこなっている。

さらに、二階囃子の期間中、1日の練習がおわった際に、太鼓を乾燥させるために、太鼓を会所の梁からつりさげたり、宵山の日に、日和神楽からかえってきてから、鉦に水をはるといった、祇園囃子の他所では既におこなわれなくなった慣習がまもりつづけられていることも大変興味深い。

そして放下鉾で最も特筆すべき事柄は、囃子方には祭りを、そして囃子をたのしもうという意識が強いことである。同時に、囃子をつづけていき、囃子の伝承を確固たるものにすることが何よりも大事であり、そのためにこそ、改革は必要なのだという強い信念がある。二階囃子の見学会の実施やインターネットによる囃子方の公募など、祭りや囃子をよりひらかれたものにしようとする志向が顕著なのはその表れである。これらの根底にあるのは、放下鉾やその囃子への誇りである。

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