7 口唱歌・譜
祇園囃子は、基本的には口承されてきたものであり、体でおぼえると同時に、既にしめしてきたように、口唱歌も伝承に重要な役割をはたしている(「5楽器とその奏法」参照)。一方、譜も補助的な意味で使用されるようになってきている。
放下鉾に現存する最も古い譜は、『放下鉾 祇園囃子 譜』(昭和26年(1951)6月校訂)である。現在囃子方の多くが所有しているのが、同譜をもとにした『放下鉾 祇園囃子音譜』(昭和40年代作成)である。また、『放下鉾譜表』(平成9年(1997)作成)がある。この他に、個人で作成した譜がいくつかのこっている。なお、放下鉾には今まで笛の譜が無いとされていたが、最近になって、『放下鉾笛音譜』(昭和初め頃、加福平一郎氏作成、カード式)が発見された(竹内有一氏の教示による)。現在囃子方有志によって、鉦・太鼓・笛を総合的に記した譜を作成中である。
これらの譜では、鉦の打ち方を記号化した鉦譜となっている。そこでは、丸印(●および○)などの記号とその位置によって、鉦のうつ場所や打ち方を表記している。たとえば『放下鉾 祇園囃子音譜』では、●で鉦の凹面の真ん中打ち(口唱歌では「チャン」と表現)をあらわし、○とその位置で、縁の下部における跳ね打ちおよび払い打ち(「チ」および「チン」)、縁の上部打ち(「キ」)をしめしている。譜にはまた、掛け声や囃子言葉、タイミングや間合いをとる際の参考になる笛や太鼓の口唱歌の一部、および繰り返しなどの様々な注意書きもしるしている。その際の太鼓や笛の口唱歌は、四角印(□)の中にかかれている。
譜「〈兎〉の譜」(『放下鉾 祇園囃子音譜』より、資料提供:放下鉾祇園囃子保存会)