日本伝統音楽研究センター

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京都祇園祭り 放下鉾の囃子

凡例

日本語要旨

0 はじめに

1 概況

2 担い手

3 曲目と笛の旋律パタン

4 囃子の機会

5 楽器とその奏法

6 演奏の実際

7 口唱歌・譜

8 伝承過程

9 囃子の変遷と意味付け

10 放下鉾における囃子の特色

謝辞

文献資料

データベース

音響資料

映像資料

English summary 英語要旨

 

 

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6 演奏の実際

掛け声・囃子言葉
掛け声・囃子言葉は、間をとる意味でも重要なものである。良く使用される掛け声には、「ヨーイ」、「ソレ(ソーレ)」、「ハア」、「コノ」、「マダ」、「マダセ」、「モウエ」、「ソコジャ」、「イーヤ」、「ドッコイ」、「アーエーイー」がある。

放下鉾においては、囃子言葉の頻度が高いことが一つの特色となっている。〈渡り〉では、全編にわたり、「ソーレー トーコートー トーコーヨーイ ヨーイーヨーイー」という、長くひっぱる囃子言葉がはいる。また、〈戻り地囃子〉の冒頭には、「ハア ヤットコ ヨイトコ ヨイトコナ」という囃子言葉がつく。その他の戻りの囃子言葉としては、「ヒトツ フタツ ミッツ ヨッツ」(凹面打ち連打や同じパタンの繰り返し)、「ヤットコセ ヤットコセ」(〈流し〉)がある。なお、〈地囃子〉における囃子言葉の「チャンチキチン チャララン」は、囃子方の誰かの工夫ではないかという。年配の囃子方が子供の頃には既にあった。これに類するものとして、〈獅子牡丹〉における「ワンツクツン」がある。

さらに、太鼓方のシンが合図として発する掛声もある。たとえば、練習で渡りをはやす時、太鼓のシンが「わたります」という場合がある。また、繰り返しをやめる時の掛け声は「コレデ」、まだくりかえす場合は「イヤ マダ」である。さらに、複雑なリズムパタンにはいる場合の掛け声は、「オーイ」である。

囃子の工夫
祇園囃子では巡行の時間が長いので、必然的に同じ曲を何回もくりかえすことになるが、一回りの最後と最初とのつなぎ目がスムーズにいくような構造になっている。また、曲目の転換を順調におこなうために、曲と曲との接続を容易にするための「上げ」(〈渡り上げ〉・〈戻り上げ〉)とよばれるつなぎの曲をつける(詳細については、「3 曲目と笛の旋律パタン」参照)。これらの工夫によって、長時間におよぶ囃子が可能となっている。

また、囃子にメリハリをつける工夫もみられる。戻りの場合に、冒頭やほとんどの曲目の替わり目にはやす〈地囃子〉は、その一例である。これらは、構造上どうしてもいれなければならないというものではなく、目先をかえる、変化をつける、メリハリをつけるといった演出のレヴェルと同時に、囃子全体の時間調整や、太鼓の責任者が次にはやす囃子をかんがえる時間として利用されるなどの機能をもったものとかんがえられる。

太鼓方は囃子を統率する役割をはたす。太鼓方のシン(責任者)は、曲目の選定をおこなうと共に、曲のテンポや構成を設定する。前述のように、稚児人形の関係で、太鼓の位置が後ろの方になり、前がよくみえないので、今鉾がどこにいるのかを他の人に聞いて、曲目選択の判断をすることがある。また、前述のように放下鉾の場合、2曲1組で曲目が構成されることが多いが、前半部分が同じ組み合わせばかりをはやすと笛方があきるので、別のものをはやすようにする。したがって太鼓方は、曲の組み合わせをよく記憶しておき、多様な曲目構成ができるようにしておかなければいけない。

次曲にうつるないしは囃子を終了することを、「あげる」という。渡りの場合、〈渡り〉を繰り返しはやしている途中で、「ソーレー」の掛け声の後の鉦の「チャン」のところで、太鼓方のシンが〈五から日和〉ないしは〈霞に千鳥〉という曲名をいった場合、直ちに〈渡り〉をやめ、〈渡り上げ〉にはいる。

戻りの場合には、〈地囃子〉を頻繁にはやすが、その間に太鼓方のシンが次曲をかんがえ、他の囃子方に曲名を伝達する。その際には、笛の最後のフレーズの節にあわせて、次曲の名称に節をつけてよぶ。たとえば、「参から旭」(「サーンカーラアサヒー」)といった形である。単独ではやす曲の場合、「お虎じゃ 虎じゃ」(「オトーラージャ トラージャ」)、「長六 六じゃ」(「ナーガーローク ロークージャ」)、「長鳩 三遍じゃ」(「ナーガハート サンベンジャ」)などとなる。休みの曲の場合は、「柳の休み」(「ヤーナーギーノ ヤースーミー」)あるいは「桜の休み」(「サークーラーノ ヤースーミー」)。

  太鼓方のシンによる次曲の伝達
〔写真31〕太鼓方のシンによる次曲の伝達

また、繰り返す曲の場合、繰り返しの回数が規定されているもの以外は、さらにくりかえすか、次の曲にうつるかの判断も、太鼓方のシンの任意となっている。次の曲にうつる場合、「コーレーデ」という掛け声で他の囃子方にしらせる。なお、テンポがある曲で、「コーレーデ」では間にあわない場合は、「オーイ」を使用する。

さらに、巡行の途中で、やむをえず囃子を中止する時は、曲の区切りで太鼓方のシンの「休み!」の掛け声でおこなうことができる。なお、昔は二階囃子の際、曲名を伝達するのに曲名のかかれた木の札をつかっており、太鼓方のシンが笛方の方になげていた。また、曲名をかいためくりもあったという。

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