8 伝承過程
囃子の習得には、まず環境になれることが大事である。その意味で、幼い時から遊びにきていて、鉾の上で囃子をきいていることは重要である。
新しく子供がはいった場合、鉦から稽古をはじめる。まず教育係(鉦指導(鉦の1・2番手)および太鼓見習い)が、後ろから子供の手をとって囃子にあわせてうってやる。これを2日程おこなうと、何とか1人で他の人についてうてるようになっていく。その後教育係は、横にいて手で合図をしたり、手をふって指導をおこなう。後は自分で間の取り方をおぼえていくことが大事になる。
〔写真32〕新入りへの指導
〔写真33〕教育係りによる指導
昔は子供の数が多くて、鉦をうつ機会も奪い合いの状態であった。そこで、練習時間に早くきて、自分のカネスリを鉦の紐につけて、場所取りをしたという。昔の指導は大変厳しく、鉦をうちまちがえると、太鼓方ににらまれた。また、囃子をおしえている人がどなられることもしばしばであり、「今の笛、半端や!」といった怒鳴り声がひびきわたったという。
昔は、鉦の習得には最低10年が必要とされていた。完成するには、更に3、4年程かかる。昔は、鉦から太鼓や笛になかなかあげてもらええなかった。中には、太鼓をうてるようになったのは30歳前後という人もいた。指導者に「お前は太鼓にいけ」という風にいわれて、次の楽器がきまった。現在は、高校生位になった段階で、囃子方保存会の会長・副会長・太鼓や笛のシン(責任者)が協議の上、本人の希望も考慮しながら、太鼓か笛のどちらにうつるか、またその時期が判断されている。
太鼓や笛の習得は、先輩の演奏をみておぼえるしかない。太鼓をしたい者はまず、鉦をたたきながら、太鼓の方をみるようにする。特にヴェテランは間違いが無いので、大変参考になる。次に、先輩の前にすわって、膝・畳・布団などをうって練習するようになる。やがて、そうした様子をみている太鼓のシンから、太鼓をうっている者へ「かわってやってはどうか」という促しがあり、その者の「うってみるか」という一言で、初めて太鼓をうたせてもらうことができる。
太鼓は、どれだけ実際にうったかで、習得の度合いが違ってくる。膝や疊だけをいくらうっていても、本当の習得にはならない。結局は代用品であり、どこでまちがえたのかがわからないからである。その意味で、太鼓は鉦と違って楽器の数が少ないので(以前は2個のみ)、必然的に練習できる人数が限られてしまう。そこで、太鼓をそだてるためには4個・4人必要であるということが囃子方有志から提案され、10年程前から練習時にはその形態でおこなっている。その結果、楽器にふれられる機会がふえ、太鼓の習得に効果があがっている。
太鼓は、二階囃子などでいくらうっていても、山鉾巡行時で間違うこともあり、山鉾巡行時での経験が重要である。また、太鼓がうてるようになると、鉦が完全にわかるという。太鼓の習得にはセンスも大事であり、微妙なリズム感を体得できるかが肝要である
笛の習得は、先輩がふくのを前からみて、指遣いをおぼえるしかない。耳と目の両方でおぼえていくしかないのである。最初は、音がでてもでなくても、ふく真似をしているだけでも良いとされる。口唱歌はある程度ふける・うてるようになってから、利用するものである。
習得があやふやな曲というのは、テンポがわからないものであるという。あやふやな時程、太鼓のテンポは速くなりがちである。ゆっくりにすると、ごまかしがきかないからである。また、まちがえても、どこをまちがえたかのかがわかることが大事である。それができないと、囃子の習得がずっと中途半端なままとなってしまう。
昔は、全曲を練習せずに、好きな曲のみをおこなっていた。その結果、どうしても苦手な曲というのができてしまっていた。現在は、苦手な曲というのはつくらない方が良いとされ、指導者達は「とりあえず、あるもんはせい」と指導している。