○はじめに　−研究の目標とこのページの目的−

　能楽の伝承の根幹をなしているのは謡の実践である。舞をのせている謡をだれもうたわなくなってしまえば、能楽の伝承は成り立たない。このことは、伝承に 直接関わる実演家の間での共通認識であるが、一方、学術研究の世界においては、それらへの関心の比重は必ずしも高くない。

　謡の実践や伝承を支える書物に謡伝書がある。本研究は、謡伝書の重要性や存在意義を、能楽界や一般にも知らしめ、謡を軸とする能楽の伝承の活性化をはか ることを目標とする。また、謡伝書の体系化がなされれば、浄瑠璃などの謡の影響を受けた近世の音曲分野を研究する隣接諸学界に対しても基礎情報の 提供が可能になると考える。

　このページは上に述べた研究目標へ向けての基礎作業として、共同研究メンバー全員で行った謡伝書の翻刻作業の成果を公開することにある。

○翻刻データとその取り扱いについて

　翻刻データの基礎資料には、共同研究の拠点である早稲田大学演劇博物館所蔵の謡伝書を用いた。『早稲田大学演劇博物館所蔵特別資料目録５　貴重書 能・狂言篇』に謡伝書としてあげられる資料は、のべ43点である。本ページではその中からまず15点の謡伝書翻刻データを公開する（一部作成中）。なお、 翻刻に当 たっての原資料閲覧は、直接原本に当たるのではなく、雄松堂書店刊『能・狂言文献資料集成』（演劇博物館所蔵能・狂言関連資料をマイクロフィルム化したも の）に拠った。また、翻刻 データは以下のメンバーによって作成された。

　　共同研究メンバー　：　藤田隆則（代表）、重田みち、中尾薫、北見真智子、丹羽幸江、森田都紀、恵阪悟
　　データ入力補助者　：　龍城千与枝、小泉美郷

　本ページで公開する翻刻データの取り扱いについては、研究あるいは何らかの形で能楽の発展に寄与する目的で用いられるのであれば、自由な改変や改訂を妨 げ ない。ただし、翻刻データを用いたことによって生じた不利益等については、共同研究メンバーおよびデータ入力補助者は一切その責任を負わない。


○ 翻刻データ一覧

　翻刻に当たっての細則

1. 各データの冒頭に「リール番号と目録番号を合わせた番号」 「書名」「演 劇博物館函架番号」を置いた。
2. 記述内容のまとまりに応じて適宜改行した。したがって原本 の改行は保存していない。
3. 旧字体や本字は通行のものに置き換えた。
4. 句読点は使用せず、文節や文末、単語の切れ目には一文字分 の空白を設けた。
5. 原本に書かれた節付や図は省略した。ただし図については、 該当箇所に図があることを注記した。
6. 版本で丁付があるものについては、それぞれの丁の表裏の末 に【１オ】のような形で示した。
7. 原本の小字注記、振仮名などは、（　）で括って示し、注記 については適宜の箇所に置いた。
   
8. 原本には見られない翻刻担当者による注記は、〈　〉で括っ て示した。
9. 難読文字や入力不可能文字または異体字は、原則として■で 示した。そ のうち、入力不可能文字と異体字については、同じ意味を持つ通行字体に 置き換えが可能な場合は、直後に〈　〉で括って示した。
10. 原本に見られる当て字は、文意を取り誤ると判断される場合 に限り、正しい文字を該当文字の直後に〈　〉で括って置いた。それ以外 は〈ママ〉と注記した。