193-60〔謡之秘書〕イ11-00376 観世流謡目録 高砂  難波  八嶋 頼政  野宮  松風 葵ノ上  通小町  鳥頭 鵜狩  海士  白髪 朝長  船橋  定家 江口  阿漕  千手 東岸居士  船弁慶  羽衣 三輪  清経  忠度 檜垣  小原御幸  小袖曽我 百万  殺生石  善界 龍田  賀茂  鉢ノ木 田村  卒都婆小町  浮舟 女郎花  蝉丸  猩々 融  芦刈  蟻通 通盛  夜討曽我  東北 梅枝  杜若  花筐 唐船  夜鳥  竹生嶋 右近  西行桜  兼平 芭蕉  伯母捨  冨士太鼓 錦木  安宅  鞍馬天狗 志賀  養老  実盛 敦盛  夕顔  関寺小町 誓願寺  自然居士  天鼓 紅葉狩  小塩  白楽天 山姥  湯谷  仏ノ原 宋女  桜川  当麻 春日龍神  二人静  邯鄲 葛城  盛久  景清 井筒  班女  三井寺 源氏供養  遊行柳  雲林院 呉服  老松  俊寛 藤戸  楊貴妃  玉葛 柏崎  鸚鵡小町  安達原 角田川  右百番也 弓八幡  鶏龍田  経政 箙  藍染川  砧 張良  松山鏡  大会 舞車  鵜羽  東方朔 俊成忠則  元服曽我  半蔀 竹ノ雪  籠太鼓  身延 道明寺  放下僧  佐保山 橋弁慶  知章  常陸帯 皇帝  碁  国栖 雷電  望月  大般若 絵馬  氷室  歌占 七騎落  朝顔  木賊 生贄  大江山  一角仙人 鐘引  鶴亀  金札 小鍛冶  鉄輪  小督 吉野静  道成寺  綱 春栄  花月  寝覚 和布刈  春近  正尊 雨月  祇王  葛城天狗 感陽宮  輪蔵  嶋廻 西王母  泰山府君  錦木戸 藤栄  絃上  須磨源氏 野守  石橋  土車 三笑  玉井  放生川 檀風  摂待  照君 雲雀山  大仏供養  現在鵺 鐘馗  嵐山  大社 熊坂  巴  松虫 護法  項羽  車僧 舎利  正儀世守  源太夫 松尾  生田敦盛  木曽願書 草子洗  三山  土蜘 谷行  龍虎  呂后 加茂物狂  飛雲  稲荷 調伏曽我  籠祇王  禅師曽我 貴船  横山  鵜祭 丹後物狂  碇潜  烏帽子折 愛寿  弱法師  行家 六浦  太刀堀  今和泉 清重  刀  吉野静 △右弐百二十番 謡数多有之候得共大形此内ニ 節拍子籠申候事也。  △謡之秘書序 先さしよりて誰も御謡候へとも小謡大事のものと申侍り候 一ふしも御謡候方ハ酒もりな とにて謡も可有と思召候時前方よりうたふへき事を心に掛 所望の時其侭御謡候事第一専 にて候 其上春ならは春の事を作りたる小うたひ何にても心を祝言に諷へし 祝言と云ハ 心をはり一旦にたゝしくかろく吟つよく物を略せさるか祝言にて候 其時に至りて其季の うたひ心に出さる時ハ関寺小町にさゝなミやはまのまさごと云所を祝言に謡へし 是は四 季ともに不苦候 小諷ひとつ其心をうたひ候へハ何の諷にても不苦候 音あミの歌に  うたはんに先祝言を専に 扨其後ハれんほあいしやう 扨小謡ハ序より諷候かよし 序と申候ハおとつれハ松にこととふと云所にて候 かやうの 所ハいつれの小諷のまへにも御入候 序より謡候へハかならす小諷を返して謡物にて候   又序なくとも初に諷候小うたひハ返し候て謡候物にて候 ことたらぬハ不祝言にて候 数 多謡候時ハ返さすにうたひ候て能候 それも一人に謡出させ跡を皆/\付候ハんと申候共 返し候てつけさせ可有候 但むことりよめとりの時ハ不返申候 送りの時ハ返し申候 そ れも舟に乗候てよそへ行く時ハかへさぬ物にて候  万此心にて候 観世宗節新宅の能に 杜若御入候時あげはをしなのなるあさまのたけに立雲のとあけらるゝ 是にて心得有へき 物也 歌に  はしめたる所へ行て謡なは しゆにんの名字なのりとふへし   さし合うたふましき との心得なり ざしきのつくりやうによりいんやうの心得専一にて候 西北ハいんなる間 此方へむかひたる座敷ならハうたひかろく吟もはりめらぬやうに謡へし 東南ハやうなる 間す少おもくぎんもめり候て謡へし 陰には陽をあてかひやうにはいんをあてかふへし  是陰陽和合也 惣別謡のくらい時により方角により申候間かろき物にもおもきにもかきら す鼓もおなし事のよし申候 歌に  それ/\の位によりてかわるへし 老若男女僧俗に有 一 四季の調子 春ハ  双調 夏ハ  黄鐘 秋ハ  平調 冬ハ  盤渉 土用ハ  一越 一 月の調子 正月 平調 二月 勝絶調 三月 下無調 四月 双調 五月 鳬鐘調 六月 黄鐘調 七月 鸞鏡調 八月 盤渉調 九月 神仙調 十月 上無調 十一月 一越調 十二月 段金調 十二時も同事 寅の時を則平調にあて候 夫より次第/\也 一 調子之五性  双調ハ  木  黄鐘ハ  火  一越ハ  土  平調ハ  金  盤渉ハ  水 夫調子ハ両調子かぬる心得其外色/\の事候へとも少々心つけ候分にて候 中々なりかた き事にて候 其上いかに月の調子にて候とても神仙上無なとにて声いて不申候間不叶事 ニ候 ひろき座敷にては少調子たかくせまき座敷にてハ少ひきく御調候心得尤ニ候  歌ニ うたハんに調子をひきく吟しつゝ みしかき事を先うたふへし さしよりてうたふ調子ハそうてうか 後はわうしきはんしきもよし  常に御嗜可有事 一 目をふさきうたふ事 一 人をしかるやうに謡事 一 手すさミをする事 一 文字を聞へぬやうに謡事 一 ひやうしをたく〈ママ〉うつ事 一 こゑをふとくほそく謡事 一 かしらをふり候てうきしつミ面白からして謡事 一 貴人御盃の内になかき小うたひ謡事 一 謡一番の内後小謡前にうたひ前の小諷後にうたふ事大形右之分悪敷候 歌ニ けいこをハはれにするそと思ふへし はれをハつねの心なるへし はれの役前のけいこを能なして 其期は心ゆう/\ともて △凡謡ハどうより声を出してほかミみ心をおき下心をはりうわかわをなにとなくうたひ候 事能御座候 はりつけとてはらをはりおとかひをのとへつけて下はを上はより出ししたを したへ付て諷へしとあり かやうに諷候へハくびより上に心ありてとなへ入口のはたかう へより声出得候て謡のわけ聞にくき物也  哥に 音曲ハ唯大竹のことくにて すくに清くて節すくな〈ママ〉れ 能音曲と申は謡のおもてする/\としてかる/\とうへにはふしもなきやうに聞へてそこ にふしこもりのへちゝめたくさんにて其さかひ耳に立候ハぬやうに諷候物と申伝候  哥に あふ坂の関の清水にかけ見へて いまやひくらん望月の駒 相坂の関の岩とふミならし 山立出るきりはらのこま 初の一首ハなにのふしもなけれとも数通吟候へ共口にもあたらす耳にも立候ハて其感ふか し 後の一首は少聞所おもしろきやうに候へとも数通吟候へハ口にこわくあたり清水の歌 には無下におとり候と古人申おかれ候音曲も清水の歌のやうにやすらかにたけたかくみゝ に立ぬやうにあらまほしき物にて候 花紅葉なと見事なるものはなく候へとも木つきかし けゑたのふりあしく候へハ見られ不申候 殊謡ハ御慰ものにて候へハくせなく聞よきやう に御嗜尤ニ候 むかしより声をはすれて曲を知 曲をわすれて拍子をしれと申候 謡さへ 謡候へは声ハひとり出候て聞よく候 ゆめ/\声を能出し候ハんと声に心を御つけ有まし く候 したるきも謡の自由になきも皆声に心付候ゆへにて候 又ふしハかりに心をかけ師 匠のことく少もちかへしと皆御謡候 かならす諷すくミかたく成物にて候 たとへハ名あ るほくせきなとを上候に紙をこしらへて少も違候はぬやうにすき写に仕候 とても同心に は用不申 はかりにて四座ともに違候へとも何れの座にても諷やうしりたる人を上手と申 候 むかしハ人のこんきつよく候によりおなし事をいくいろも名をつけ習にて候と見へ申 候 今は人の心みしかくなり候間くとき事をはのけして大形入候はて不叶事申候 一 当座の花つひの花といふ事あり 歌に おもひにや時の花のミかさしつゝ つヰの花をは打わするらん 見渡は花も紅葉もなかりけり うらのとまやの秋の夕暮 扨当座の花ハさて/\見事かなとおもへとも花は七日を経て散物にて候 月ハ常住不滅に してつくることなく面白物にて候得は夕暮の月ハ終の花にて候 習ともをよく/\御けい こ候て其心をふまへていかやうにも新敷御謡候ハゝ 是ついの花にてけうあり 面白御入 可有候 夫論語にふるきをたづねて新きを知るといへる心なる成へし 皆人ことに謡をわすれすに おほへうつくしく拍子にあひ声さへ出候へハ此上ハあるましきとおもひじまんし人もゆる さぬ上手ニ御成候 右のことく謡候へは大方ハよきやうに候へとも中/\上手とは申さす 候 是当座のはなにて悪敷候 能拍子にあひ候ハ皆したるき位にて候 きらひ申候 是拍 子なとゝ申候て事ノ外悪敷事にて候 拍子の間より謡出しほとよりひやうしにうつり相て あわぬ心持是程ひやうしとてかろきよき能音曲に仕候 心に謡候ハんと存候へはむかしよ り古人の申置候 ならひともをよく/\修行不仕候へはなりかたき事にて候 是つひの花 にて聞さためなく候  歌に こゑ出すに音なりと音曲を ならひて謡ふ人そゆかしき 出ぬよりもなをつる声の音曲の とこしまなるそしやうしなりあけり 又いかにさらりとのひやかに諷候か能候とて人にも謡手とよはれ功者なるものゝ幾度謡候 も何事なくおなし事はかりにては其感なきものにて候 一はんの内にてハ一所二所あたら しきふしおも諷ぬく 拍子かくる拍子なとも御謡可有 左様候へハひとカトキヽコトニ覚 候ものにて候 古人の謡置候珍敷ふしなとはいかほとも御おほへ候て時/\御謡あるへく 候 左様に候とて珍敷ふし沢山にハかまひて御謡あるましく候 たひ/\謡候へハまため つらしくなく候 初心の人なとハ一節も謡候事御無用ニ候 一 たけくらへ 秋の蝉の吟の声 一 三ののの事 六宮のふんたいの顔 一 三字あかり うきねそ替る此うみの 一 三字さかり 花見車くるゝより 一 三ひき 春にあふこと 一 二字おとし たくいなききひにかく 一 一字おとし むかへハ替る心かな 一 三重おとし 老の身のよわり 一 かたおとし 初より老の身の 一 ふしなまり 清水寺の鐘の声 一 文字なまり こ金の岸に至へし 一 まへおとし 夜嵐にねもせぬ夢と 一 かたくり 太液のふようの紅 一 白くり あひしうの心 一 くる事 正木のかつら 一 二字くり 唯夢のこと 一 ひろふ 定家かつらの 一 いるゝ 月雪の 一 よする 枕をならへし 一 はこふ 草はう/\として 一 口を切心又有時ハ声を聞 一 心を切口を 春過夏たけ秋来る 一 口も心も切所 哀にきへしうき身也 一 文字をしやうニ謡事 夜めえたくそ 一 しやうを文字に謡事 ほうそう雨したたりて一 たけのミやこぢニ 一 しのに物おもひ 一 来りてなく声を聞ハ   右三所のしやうハつ鼓をはやすうた拍子也 かやうの所ハ何も同前  △宮増弥左衛門 歌ニ  \年ふれハかわる事のミ多き中に つゝミをはやすうたひねも哉 一\文字のしやうちかふと云ハ  みえぬ みへぬ  たへぬ たらぬ 一 口中開合の事  あいうゑを 鼻唯に通  かきくけこ 歯につうす  さしすせそ はと舌に通  たちつてと あきとに通  なにぬねの 花と腮に通  はひふへほ 唇あわせす  まみむめも 唇あふ  やいゆえよ はなより出ル  らりるれろ したをふる  わいうえを 鼻咽に通 〈以下五行、横方向に縦書で記される〉   口ヲスホム   舌ヲ出シ口ヲ中ニヒラク   ハヲカミ口ヲホソム ハヲカミ唇ヲヒラク   ハモ唇モヒラク 一 しやうくの習の事   平声 上声 去声 入声   チヤ ワン テン モク 一 宮 商 角 徴 羽     木の下陰 国も治る   松に言問 音信ハ   所は高砂の 一 りよりつ(りよハふとく りつハほそく)〈割注〉 一 炎天寒天(あつし さむし)〈割注〉 一 わうしゆ(よこ たて)〈割注〉  かやうのうたひやうのならひあまた御入候へともしよはつきう一色よく御けいこ候へハ 澄申候心同前に候 一 じよはつきう 是ハなかくのへたるあとをハかろくひろいて謡ひひろひたる跡をハのへてうたひ候事ニ候  又地の程とてひやうしのまを謡候て行候事あり たけたる位にてなく候へはなりかたく候 一 もしうつり 是は何にても字を引候へハ跡に一字つゝ字をうむ物にて候 らの字をなかく引候へハあの 字出き申 たとへバさひしき道すから秋のかなしミと云所らの字を引あの字を云に不及  きの字にうつり候かもしうつりにて候 何も是と同然 一 女はかせ (いん也夜也 のううつる うつくしく少よハくハる)〈割注〉 一 男はかせ(やう也昼也 あらめにつよく)〈割注〉 諷一番の内にもめはかせおはかせ御入候 しゆゑんをやめたまふ御心の内そいたハしきと 云所女はかせなり かくてしけひらちよくによりと云所おはかせなり   右何れも同前 鳴物心得となり とかく謡もおなしくそれ/\のげだいのことくに心得候 てうたひ候へハ上手にて御入候 心もち謡の位ハ御けいこに不及候と観世宗節申され候と 承候 たとへハ定家ならハ式子内親王の位を分別してけたかくうつくしく御謡可有候 又 江口ならは遊女の位を分別してなくそこうに有へく候 又葵の上なとは上らうにて候へ共 うはなり打にてしんいのほむらをにやし候やうにつくり置候あひたうつくしき内につよく かとうしく御謡可有候 しゆらなとハ一番の内にて初の出はハ或老人になり或ハ草かりに なりて出申候間其姿の位に御うたひ可有候 後の出端よりハかならすむかしの有様をあら ハして武者に出立候て出申候間其位につよくあらめにに御うたひ可有候 それ/\に謡作 置候間其工面のことくにかつめり位を御諷可有候 百はんも千番も右の可為心得候 一 脇とシテとの心得 脇の方は位もなくつら/\とかろく御謡可有候 かろきとてはや くハあしかるへし シテの方ハうつくしくのび/\と位をあらして謡へし したるくハあ しかるへし  歌ニ   音曲ハかろき心そよかりけり おもきもわろししたるきもうし 一 助音するは我をわすれて人にしたかふへしさるにより耳にて諷と有  歌イ   寄合て謡はん時ハ其中に 初心の者ハ耳をあくへし   皆人のつよく謡ハん其時は 声をやすめて又謡へし 一 めるハはる はる ハめる 是ハこゑをめり候てひきく謡候時は心をはりこゑをはり てたかく諷候へ〈ママ〉 所は心をめり候て能候 一 君臣のやく 一 小謡は諷君にて鼓臣成によりうかゝひ候て打候 一 曲舞ハ鼓君にて謡臣成によりうかゝひ候て謡申候 一 何の謡にても其位により三所かろき所有ル 一 ろんきの後 それろんきまたもんたひなとはいさかひのことくにて初ハしつかに云あ い候とも後ほと気を上ケてまけしとつめてからかひ申候 其ことくにろんきもつめて謡候 物にて候により其跡かろく候 しよはつきうの心得かんようにて候  歌ニ   ろんきこそやすくきこえて大事なれ とふに答るほとをしらすや 一 くりのまへ それくりハ鼓かゝり候て打候によりまへのうたひおもく候へはくりうた れ不申候によりかろく候 一 さしのらぬはさしこへのるハさしこと 是ハ君臣の役はすれたる所にて鼓とおもひあ い不申候によりかろく候と申伝候 去なからさしに合と合はぬとの打やう御入候 打候人 稀に候 但一ちやう鼓の時ハ又打やうかわる也 一 さしの諷出し鼓打上候て小鼓扨おとし候てから其侭謡申候 立曲舞くりのゆり少あま るほとにはやく打上候てうたハせ候 居曲舞ハ鼓より一段もおそく打上候て諷わせ候間可 有其心得候 一 曲舞のたし鼓 かんにてうたわせ候へは声をかけ申候 おつにて謡はせ候跡ハ声かけ 不申候 おつにてハ手に成申候間かけ不申候 油断なくこゑにかまはすほとより諷出し候 事専一ニ候 一 上はのしやうね 然ハうねめのたわふれの ぢのほとのうたひやう 一 太夫後の出端の諷やう 女はかせは小鼓のしゆんより謡出し申候 笛を聞つくろひう たふへし 又太鼓にての時は心得替申候 一 謡の腰折 是は後の出はの一せい打上候得てかならす脇謡申候 鼓の少内よりかけてかひつゝけて御 謡候物にてほとを置候て諷候をこしおれと申候 余りに内からハあしく候 一 くりのゆり数の事 (花初てひらく 九共十共申候共 半ゆり四つにて候間八つ可然 候)〈割注〉 一 脇能は八つ 一 かつら能ハ七つ 露の世語よしそなき 一 太夫壱人ゆり候ハ五ツ 別当寺の仏力也 一 半ゆりハ四ル そわんの竹を染とかや 一 舞のはて鼓打上 次にワカを諷候 謡を鼓忘れ候て打上候事あり たとへハあたかな らは 瀧の水をうたわすに日はてるともたえすとうたりと謡出す物にて候 夕顔の舞なと 鼓わすれておとさすにかしらにて打上候事有 それもお僧の今ののとふらひをうけてかす /\うれしやと後の返しより諷物にて候 かやうの所何れも同前 一 五音是を能々知す候へは諷にてはなとゝと申候て事外秘する事にて候 一 祝言 年の初 千秋万声と祝心得   引歌に  春日野に若菜つミつゝ万代を いおふ心ハ神そしるらん 金札の小謡またハ脇能の曲舞にても稽古可有候 一 幽言 幽玄共書心得可有候   引歌に \有明のつれなく見えし別より あかつき斗うき物ハなし △三井寺の小謡曲舞にて候 一 \恋慕 人にわかれなつかしき心持  歌に  \立出てつま木をひろふ片岡の ふかき山路となりにけるかな  花形見の小謡 班女の曲舞にて候 一 哀傷 一切よハし  引歌に  浅芽生や袖に朽にし秋の霜 忘れぬ夢をふく嵐かな  △角田川の小諷 せうきの曲舞  引歌  いつしかと神さひにけりかく山の むすきか本にこけのむす迄 歌占の小謡 おきの院曲まひなとにて御けいこ可有候 謡一番の内幾所も五音替申候間一 番とは定ぁた候 先ひつきつてかしらより諷出し申が祝言にて候 ほとよりうつくしく謡 出すハ不祝言と可心得 右のことく小謡一ツ充ハ皆稽古候て御謡候へとも一番の内其所/ \五音に諷て候人まれに候 五色に謡別候ハふしにも文句にもよらす候 心のかわりめに てこわ色かわり人の耳へ五色に聞へ申候 祝言幽玄恋慕此三曲何れも下心に祝言の心持は つれ候てハ悪敷候 祝言の心持の上にこゑに色をつくるとつけさるとちかひにて候 哀傷 は祝言の心はなれ申候 蘭曲ハ右如申候 四曲成就仕候て打ませて諷候ニより乱曲とも書 申候 引歌ニたとへなとあまた書置申候得共いか程み候ても合点不参ものにて候 小諷一 ツを五色に声色をかへて諷分候人に御稽古可有候 一度にても御合点可参候 当代左様に 諷わけ候て聞せ候人稀ニ可有御座候 皆無案内と見えて祝言をも無祝言に御諷候所斗ニ候 一 いきつき  さし 曲舞 きり 三所なから皆替り申候 いきつき大事の物にて候 てにをハにてつ くへし 人にしらせぬやうにつへし うつくしくつき申候をよきと申候 一 さしハひたひにて声をきる 一 曲舞ハ出るいきにて謡出し候 又しんのざうにて謡おさめはいのざうにて謡出し候と も申候 心同前ニ候 二字つめとてくさりのゆひはなしを二字つゝつめ候 ゆひはなしに てつめられぬ所御入候 夫ハ云出し候を二字つゝつめ候 此心持専ニ候 一 きりはさしぬきとて諷おさめかろくすて諷出しをまへかけて謡出し候 一 \かろき字ハちいさかるへし 一 おもき字は大きなるへし 一 つよくあたりつよく入へし 一 かろくおすへし 一 ひくにハよきほとらひ可有候 なかく引ても悪かるへし 一 とたかの三字ハ皆きめ候てよし 一 へうの二字ハうつくしくよハかるへし 一 うたひをつよくと云事有 少の事にて候へとも口伝なくては少あかしかたく候 一 鼓より謡そこなハせんとて手を打かくる時の心得 本の地に心を付てすちわするへか らす 第一いつくにてか珍敷打候ハんと油断なく心をつけへし 生れつきの拍子つよくて あいてのひやうしうかゝハぬか極意也 詞によつて皆違也一 \謡より鼓を打ちそこなわ する心得あり うたぬ五ひゃうしによハく心を付て身の拍子かくるひやうしを沢山に諷候 へハかならす打そこなわする習あり 皆/\不入事に候へとも御入候事とも有候間書付申 候 一 宵には物数おほくたかく謡へし 暁ハ ひきくすくなく謡へし 但おかんとおもふ時 少したかく諷へし 扨あつき湯をのむへし 声のむきたるを謡からさぬやうにすかして諷 へし 声のつまりたる時ハつをのミ候事 何よりくすりにて候 たんひきしろい候てうわ れ不申候時あり せうかをへきみそを少つけてあふり候てくひ申か何よりも能候  歌に  暁にかきるへからすつかふ声 つねに謡をうたふへきなり  △それひやうしのおこりハむかし有人脈のおどるにて心つき是にて鼓をも作り出たると申 傳へり 本の拍子是也 一 \本の拍子 (はしめて作りたる謡に鼓を 付候時入候何にうち候ても 合申候人の 合点の行ぬやうにうつへし)〈割注〉 一 五拍子 (身のひやうし口ひやうし 手ひやうし足ひやうし 心ひやうし是五つ也) 〈割注〉 一 七拍子 (はやしをそし かろし中したるし うはかふきしつか)〈割注〉 一 よひやうし  此二つ能の時脇と地と 一 や拍子 心得有  色/\の拍子とも作り置候得とも是皆拍子のつもりをして常にうたぬひやうしにて候  一 打五ひやうし (扇拍子 時すへてうたひ 切の所に打候)〈割注〉  朝長にこたふ事さらになしと云所にて打事秘事に仕候 但一ツのかしら有 是大に秘す  かやうの所あまた其外ニも有へし 一 \打四ひやうし 大鼓と小鼓とのあひに四ツ打也 是ぬるきひやうし也 一 \打八ひちゃうし 是ハワカきりにもつはら用申候 但はやきとおそきとの打やうに て何れの所にも打候  △三ツハ本地 四五ハ可寸 六めハ当 のこりハ本地  数ハ同物にて人により候て打 様違ひ申候 皆ひとつ事にて候 一 打一ひやうし (句切に有 鼓なく諷候時ハこまか成能拍子にて候)〈割注〉 一\やうにむかゑかくわほくハまたかやうの時のいきつきに打申候 又一拍子つめとて小 謡なとのうたへすへ何をも一拍子にてうたふ事有  又すミのひやうしと云て一ツ打事有  さゝなミのミなれさほこかれ行ほとにとをかりしと一ツ打候て諷候物にて候 当てあたり ひやうしとて事の外嫌ひ申候 右此すミの拍子ハ扇拍子にての事ニ候 鼓にはひやうちやうかへりにすミの拍子と云事有  すてのかしらと云事有 一 打切謡出しの拍子 〈以下五行、横方向に縦書で記される〉此拍子 本の拍子のホト 本の拍子 態のほと 態の拍子  〈以下五行、右の五行の下に記される〉 りう女へんしやう こうくりの春のあした 清水のかねの声 かつラきの大きミ われも其かミみは 打切ハいつれの所も此五ツより外ニ出候事ハなく候 さりなから是ハるつう不仕候へハや くに立不申候 一 \力道  現在の鬼口を(ふさきたるおもて也)〈割注〉 一 \細道  神鬼と云物也 口をあきたる面なり こまかにうきやかに諷へし 一 上り僧ハ定家  次第に下洛を打 二つめに本の頭打 是を聞て脇出る也 鼓の打やうを 聞鼓の笛六の けをふき 小鼓頭二つ打あとのおつから大鼓打出しおき鼓と打むすひ次第打也 行末やさ ためなるらん 作候ぎにより次第不定に打とも申伝へ候 一 \下り僧ハ 江口  次第に上略を打 二つめに下略うつ 是を聞候てわき出る也 上り僧下り僧ハ此二はん に極申候 此打やう不知候へハ脇出候事不成候間如此候 一 脇能にはでかしらと云候 入候て頭打不申候をは脇出不申候 何時出し候ハんとも つゝミのまゝにて候 打やう口伝ならてハ書あかしかたく候 一 大口きる僧ハ 住僧  座主法印也 是もハしんにおも/\とうたふへし おきつゝミ有 一 大口きぬハうつを僧とて常の僧也 是ハそさうにさらりと諷へし おきつゝミもなし  若打候得てそさうニ打也 一 \かいこのおき鼓常のことくそさうに打置也 扨はきゝまゝにかゝりたるを見て本の おき鼓打脇たつはいをして袖のをゝ取を見笛引おこしのゆりを吹 頭七ツなかし打上て後 のおつよりかいこ云出に名乗を云て打切本のかしらを打 扨謡を打次第をうたひ三度次第 過てまた打切 道行を謡ひ申也 今春ハ地の次第より一拍子にて道行を諷候と承候 是悪 し 名乗をかいこなのりとて下声にて名乗出し名乗納て神前にてハ頭より打出さする也  本の地打謡出さする也 御前にてはきさミより打出す 鼓打大小秘し候て相伝不仕候によ り ひじ失ひ候て今時分ハ存候人稀候 脇仕候へは必入候間書明し申候 一 たつはい わき常の置鼓にて脇出申候 扨脇ぶたいの中にて礼を仕つぶりをさぐるを 見て笛ひしく其ひしぎに付大鼓きざミを秘一ツ付て打切本の頭を打扨諷頭を打それより次 第を謡候 是常に礼脇と申也 一 \本の頭  一 \大かへし (鳥追花形見柏崎井筒 ミおそろしやたのもしや)〈割注〉  △たのもしや右の打切其なかれ/\に秘しておしへ不申候により今はかやうには打不申 候へとも若存候て打人候へハ謡出かね申候間書明し申候 一 一挺鼓にて一人諷候心得 先小諷を序より諷候物にて候 扨永/\と所望の時さしよ り曲舞を諷曲舞ハ諷ぬ事にて候  うたひには鼓のやうに定りたるならひハおほく無御座候と承り候 一 正尊の起請の打やう 一 木曽願書の打やう 一 安宅勧進帳の打やう 右の三ツのよみ物とて 行〈ママ〉やうむつかしき事ニ仕候 一 \松風羽の舞にモンの留の打やう 一 \りよはとうハおそれて近付すと云所の打やう今春と観世とのかわりめあり 一 \闌曲打やう  右ケ様の所ともあまた御入候 か様の所ハ諷ても鼓をしり不申候へは成不申候 よく/ \執心にて御尋可有候 一 \大鼓ひつとり候て小鼓の本地に行〈ママ〉候事ハ御入候 大鼓の本地にて小鼓のひ つとり候事ハなき事にて候 むかしよりの法度にて是に違ひ候へハ地をやふると申候 大 鼓小鼓共に三ツまてはひつとり申候 其外はとらぬ事にて候 但小鼓本地には余りひつと り候はたらす候事有 是はふんの物打やう有 木曽願書にも有 人しらぬ事なり 朝夕あ る事の内にハ源氏供養に たゝすへからくはしやうしるらうのすまのうらを出て と云所 に有 六韜に云 一犬かけをほふれハ万犬声をあやまる 一師みなもとくらけれハ万弟道 に迷ふと有 師匠一人悪しけれハ其弟子皆悪しゝ 能師匠に御稽古尤ニ候  歌ニ  \師匠にもとハすはいかて教ゆへき 心をくたきねんころにとへ  \するわさをとふをはちとやおもふらん とハぬハつヰのとなとこそなれ〈ママ〉  音曲\をきわむるほとのものならは 猶奥ふかく事をなんせよ  \上手こそ物きらひする事そなし やうかましきハへたの曲なり  へたこそは上手の上のかさりなれ なにとわるくとそしりハしすな  \其人の師匠云たる斗にて なさぬ稽古に師のはちを云   扨謡出し肝要にて候  歌ニ  \謡出す心は何ともちぬらん しうに物いふ心なるへし 謡出す声をはなにとおもふらん 鶯のなくこゑのことくに 何心もなくふと諷候により  つきもなきこゑ出候て謡必おもく成其謡のはてまて其心にしたるく御入候 一調二気三声 といふ事有 調子を分別して入て声を出すへし の二字とてうたひ出し候 初の二字かろ くよせてうたへ候へはしたるき事なく候 謡のひじハくふうと申候  何事も工夫にまさる事あらし ならひの上のくふうなりけり いか程稽古仕候ても常にくふうをして御うたひなく候ハゝ心斗は行候とも口にハ行申まし く候 似たる事の似ぬ事にて候ハん間分別肝要にて候程拍子と云事それほとの心はへもい はれぬ所 本来の面目也といへは誠に此道成就の人はさとりをひらき得道すへき也  春 一 おとつれは待つに事とふ浦風のおちは衣の袖そへて 木かけのちりをかこふゆ/\ 一 所は高砂の/\尾上の松も年ふりて 老の浪もおりくるや 木の下陰の落葉かくなる にて命なからへてなをいつまてか いきの松そ久しき名所かな/\  夏 一 頼ちかひハ此神によるへの水をくまふよ \みたらしの声も涼しき夏かけや/\たゝすのもりの木末より初音ふり行時鳥 なを過が てに行やらて 今一とをり村雨の雲もかけそふ夕つくひ なつなき水の川くま くますと も影ハうとからし/\  秋 一\いさやあゆミをはこはん/\  \神さふる松ハとかへり千世の秋/\霜をかさねて下草の 露の身なからなからへて神 につかへ奉る 宮路久しきミずかきのふかき誓ひ有難や/\  冬 一けんしやうのかさにハ/\むやうの月をかたふけ けんとうの柴にハふきやうの花を手 折つゝかへるすかたや山人の かさも薪木もうつもれて雪こそ谷の道をたとり/\帰来て 柴の庵リに付にけり/\ △打かへすとつれて出す曲舞の拍子あひの事 一 夕顔 物のあやめも見ぬあたり 一 玉葛 便りとなれははや舟に 一すゝき 母は其時しけ家に 一 松むし 一樹の陰のやとりも 一 東岸居士 生をうくるに任 一 唐船 いわんやわれらさな 一 蝉丸 世はまつ世に及ふとて 一 田村 ふてんの下卒土の 一 横山 又我朝の其むかし 一 盛久 六そういまた明さるに 一 せうくん そもかんわうの 一 嶋めくり 北にむかへはかり 一 竹の雪 おもひおほき 一 きぬた そふる旅ねハ 一 谷行 一切ういの世の 一 ろう尺八 およそうき世ハ 一 安達原 只是地水火風 一 弓八幡 上雲上のけつけい 一 江口 紅花の春の 一 そで しうのみかとの   打返して声二ツかけて出す 鼓ハすくに打へし 一 野々宮 つらき物にハ 一 やうきひ 我も其かミハ 一 老松 けにや心なき草木 一 かるかや されはかたしけな 一 井筒 むかし此国に住人 一 実盛 またさね盛か 一 歌浦 しゆに生めつし 一 桜川 けにや年を経て 一 仏の原 けにおもふ事 一 千手 今はあつさ弓 一 藤戸 けにや人の親の 一 俊寛 時をかつしてハ 一 小川 はうしねを  △打返して声二ツ掛可出す 鼓ハ引とるへし 一 あさかほ ゆうはくやう 一 船はし さらはしつミも 一 海士 かくてりうくうに   △打返して声一ツかけて出す 鼓ハ引とり候 一 高砂 然に長能 一 くれは わうじん天王の 一 舎利 然るに仏徒東前 一 忠度 六弥太心に思ふ 一 つねまさ 第一第二のけんハ 一 あひ染川 いゑともくせひの 一 誓願寺 せいかはるかに 一 源太夫 老人こたへて申 一 むろ君 立ぬわさ〈ママ〉衣きし  △打返して一ツ掛て出す鼓はすくに打 小鼓おなし 一 紅葉狩 さなきたに人心 一 安宅 然るによしつね 一 花月 抑此寺ハ坂の上 一 宋女 かつらきの大君 一 のきはの梅 所は九重の 一 こかう たうていの古へ 一 兼平 兼平申やう 一 自然居士 くわうていの臣 一 夜打曽我 去程に兄弟 一 せかい 然りとは申共 一 ゑんま 僧正遍照ハ 一 杜若 然共世の中の 一 吉野静 抑かけときか其 一 殺生石 其時御門 一 八嶋 儀〈ママ〉経源平に 一 松山鏡 もろこしに 一 浮舟 人からもなつかしく 一 ぬへ 頼政其時ハ 一 元服曽我 れうもんけんしやう 一 白楽天 抑鶯の歌を 一 当麻 所は山かけの 一 女郎花 頼風其時にハ 一 清経 かゝりける所に  一 このうやうきひ 然にめいくわう 一 土車 およそみたの 一 鵜羽 おも白や是と 一 芭蕉 水にちかき 一 蟻通 およそおもつて 一 半蔀夕顔 其頃源氏の 一 班女 すいちやうこうけい  一 箙 時も〈ママ〉二月一〈ママ〉旬 一 はんこんかう 伝へ聞かんわうハ 一 けんしやう 師長おもふやう 一 せつたい 其時義経  打返して声二ツ掛て出す 但小鼓すくに打也 一 白ひけ 其時人寿百 一 あつもり 然に平家世を  打返して声一つかけて声につれて小鼓引とる也 一 あしかり 難波津に 一 西行桜 見渡ハ柳 一 小塩 春日野の若 一 羽衣 春霞たな 一 より政 去程に平家は 一 難波 高きやに 一 百まん ならさかの 一 定家 あわれしれ 一 かつらき かつらきや此ま 一 二人静 さる程に次第/\ 一 朝長 去程に嫡子 一 三井寺 山寺の春の夕 一 おはすて 去ほとに三星 一 落葉 もろかつらおち  一 立田 年ことに紅葉 一 道明寺 君かすむ宿 一 小袖曽我 時宗は箱根に 一 清重 あひ別あひ 一 道盛 すてに軍ハ 一 舞車 第五にはなから 一 氷室 夏の日に   打返す中に出す曲舞 但大鼓一つ小鼓とるへし 一 柏崎 かなしミの泪 一 朝長の内に三世十方の  △打返して出は大鼓小鼓直に打へし 一 はうか僧 せひやうの春の 一 猩々の小謡 しんやうの江に 一 柏崎の道行 一通ふる村時雨 一 しゆんゑい それしやうしに流伝〈ママ〉 一 海人のの小謡 是こそ御身の    △打かへす拍子にあいつれて出る   打返す拍子にあいつれて出す 一 六たひの小諷   中の打切 返すに書こときなけき申せは 以上         宮王三郎         観世小次郎 此書外ニ有之間敷候観世之家之大事進候 他言有間敷者也如件   外秘事聞留 一 卒都婆小町 九拾九夜の数の事 口伝 一 三井寺鐘の段百八枚之事 口伝 一 拍子の事 地拍子同   ・ヤヲハ 口伝  ・ヤハ 口伝   ・ヤヲ  口伝  ・ヤア 口伝   ・ヤ   口伝  ・片地 口伝   ・ヲクリ 口伝 右拍子方の事 各々秘事有 先如斯心掛ニも謡候へハ能候 一挺皷の節は一入心入可有  能々執心施修行可有也  ヂヨ  ハク  キウ  徐   廻   急  シツカ セマル イソグ   七こ小町 雨乞小町   関寺小町 卒都婆小町  鸚鵡小町 通小町    草子洗小町 清水小町      一挺鼓   観世座 弐拾五番 クセ 羽衣  笠 芦苅  クセ 野宮 クセ 西行桜  クセ 百万  クセ 千手 クセ 仏ノ原  クセ 六浦  クセ 籠太鼓 クセ 遊行柳  クセ 柏崎  クセ 江口 クセ 夕顔  クセ 芭蕉  クセ 源氏供養 クセ 雲林院  クセ 誓願寺  カネ 三井寺 キリ 松虫  勧進帳 安宅  ウタ 放家僧 クセ 班女  クセ 熊野  クセ 桜川 クセ 采女 右之通観世座一挺皷如斯候  下掛りは此外ニも打申候以上   囃子六拾四番  観世座 高砂     海人     三輪 老松     白楽天    難波 白鬚     加茂     呉服 志賀     邯鄲     羽衣 弓八幡    龍田     敦盛 実盛     兼平     田村 盛久     井筒     仏原 宋女     玉葛     野宮 芭蕉     夕顔     松風 梅枝     楊貴妃    江口 源氏供養   熊野     定家 千手     遊行柳    安宅 花月     芦刈     春栄 松虫     西行桜    東岸居士 天皷     融      舟弁慶 当摩     自然居士   錦木 猩々     誓願寺    杜若 冨士太鼓   百萬     班女 浮舟     雲林院    善知鳥 柏崎     小塩     山姥 二人静    桜川     東北 紅葉狩 右囃子組如斯候   諷番組 神祇  高砂 修羅  実盛 かつら  井筒 鬼  殺生石 物狂  三井寺 ギ(ママ)リ  西行桜  祝言 右は能謡には三番目をかなにて書申候 囃子組には二番目修羅をかなにて書申候 扇子は シテワキ共に右手に持 左のひさの下へさきを付諷申候 地うたひ つれなとは ひさの 上にそろへ候も諷申し候 両手に跡先持謡候事ハ御座候 尤諷申の節は畳一貼半程 先見  全く脇目少も致間敷事専一也  西行桜 陽のユリ 明そめて  口伝  老松 陰のユリ 鶴かめの  口伝 右陰陽のユリ 如斯常に謡ハぬ事に候 祝言の時能/\覚候得共 ユリ違不申候様に吟  めり候得共不祝言に也申候 能々御稽古可有候 一熊野の文    口伝 一景清せうもん  口伝 一定家七之位   口伝   田村十悪 殺生  偸盗  邪淫  妄語  綺語 悪口  両舌  貪欲  瞋恚  愚癡   通小町 一八瀬の山里   山城北山不覚 一車に似たるは嵐にもろき落椎 推古事可有 漢に椎の風に落て行を見て車に作りそめた る事有か 一人丸のかきほの柿 人丸家の門に柿の木有つるゆへに柿本の人丸と云り 一山辺のさゝ栗 山辺和州野の名也 小(サヽ)栗か柴なとの刈くゐより立枝の小(チイ サキ)に実のりたる栗也 一桜あさのおふのうら梨  生浦ハ伊勢の名所也 桜あさの生るとうけたり 麻の生るは 桜の花のさかりにと云説有 又麻の花桜に似たるともいへり 一まては推  常の椎にかハりたる也  小町山本六代孫中納言良実卿の子出羽の郡司右京亮良家の女(ムスメ)也 但説也 一山のかせき  鹿のこと也 角(ツ)の杵に似たるゆへの名となり 山のかせぎ人の木 をになひて出る様也   太閤秀吉自作五番之謡 吉野ゝ花見   高野参詣 明知  柴田  北條 右は文禄三甲午年三月十五日於大坂城内秀吉三番金春二番相勤新作謡是也 右謡伝受之儀元禄年中於江戸観世織部並 福生〈ママ〉茂右衛門 服部作右衛門 其外観 世座役者中出合謡合 関〈ママ〉合令伝受者也 此外御旗本には佐野長門守殿並赤坂孫七 殿 大柴清右衛門殿浪人には中沢五左衛門 塚田孫助等に不断出合令 興行 皷は幸ノ清 六郎門弟にて段々伝受事相伝を請 笛は一双八郎右衛門 大皷は葛市郎兵衛 大皷は観世 惣右衛門各出合無油断 十ヶ年に及稽古相極所 如此候 全他見他言有之間鋪者也 如件 延享二乙丑年十二月日 大久保市之尉藤原忠盈〈花押〉〈朱丸印〉〈銀と朱角印〉   米倉貞八郎殿    脇句 しうしんのふかき心の有ならは また知人にたつねおほへよ    発句 師のおしへ枝葉ひろかれ雪の松 厳生堂  俳名 岫竹〈朱丸印〉〈銀と朱角印〉