193-45〔金春流曲法秘伝書(延徳二年常門彦次郎相伝元安音曲伝書)〕ハ23-00018 延徳二序 至寛政四年 三百三年ニナル 〈図あり〉去声 入声 東 上声 平声 声  フツクチキ ネハンテン 上音 上音之中 中音 中之下 下音 あいうゑを かきくけこ ―喉内 さしすせそ たちつてと なにぬねの ―舌内(ハンセツ) はひふへほ まみむめも ―唇内 やいゆ江よ ―喉 らりるれろ ―ハンセツ わゐうえ於 ―喉 角(スミヘ入) 徴(ヒロク) 宮(カタル) 商(アキノウ) 羽(ハル) 双 黄 一 平 盤 木 火 土 金 水 肝 心 脾 肺 腎 甲 丙 戊 庚 壬 乙 丁 己 辛 癸  四十余字上中下音之事 あかさたなはまやらわ 是ハ上音なり いきしちにひみいりい 是ハいつれも中音なり うくすつぬふむゆるう 是ハいつれも中音也 ゑけせてねへめえれえ 是は下の中音なり をこそとのほもよろ於 是ハ下音也 この内との字取分下音に用也 のの字は上音に用へ きなり 右此五音之文字のあつかいを一字千金の習といひてたやすく人に伝事不可有 可秘/\ 一 五音三曲之事 一ニハ 序(シツカ) 破(ヤフル) 急(イソク) 一〈ママ〉ニハ 宮商角徴羽 三ニハ 呂(フシアリ) 律(フシナシ) 也 右此位を能しれハ 諸事に渡るといふに 是則 皮(序) 肉(宮) 骨(呂)といへり 一 三曲之立やうに云 序破急ハ拍子の位はやき したるき かろき しつかなる位をさたしけるなり 一 宮商角徴羽之事 一 宮ハ平せい物かたりなとしたるいきをも■まゝつくろはすして云出すを宮といへり 一 商ハ上の文字につよく当て下の字をあらためすしてあきなひてゆく故に商と是をいへ り たとへハ やあの心なり 能々習べきと云へり 一 角ハ 是も文字にあたりすみへ心をもしたをもやりて さする文字をうつくしくいふ 故に角といへり 一 徴ハふしもなく文字にも心なくする/\としたにかけてゆく位也 たとへは篠の葉に あられなとふりたまらぬ様に行位なり 一 羽はいかにも其文字に当て下の文字をゆふ/\と静にやる位也 是を曲のまへの曲と も云て肝要也 当字なけれハ必なまるものなり 能々習て我物になすへき者也ト云々 一 呂律之事 呂とハ曲ありてしつかにゆく位なり たとへハ水なとなかれとゝまりてうすまきよとみの 有ことく成へく候 一 律■はすくにして曲なし 是ハ呂にかはりて水なとする/\と流し少しもとゝこほる 所なき故に律と云う 右此三つの位をよく云おほせたるを皮肉骨の三曲といへり 能々師 説を請へしと云々 一 音曲に五音といふ事有 是は 祝言 幽玄 恋慕 哀傷 蘭曲也 世上にひろく人用 ゆなれはこれにのせす 一 音曲に声を出すへき(用心之)事 一調 二機 三声と用也 調子ハ機る〈ママ〉持なり 吹物の調子をねとりて機を入候て 目をふさき気を内へ引てさて声をいたせハこはさき調子の中より出なり 調子はかりをね とりて機にもあはせすして声を出せハこはさき調子にあふ事さうなくしてあしき也 調子 をは機にこめてさて声を出す故に一調二機三声と定也 又いはく調子にて出し文字をはく ちひる分也 又稽古に曰 声を忘て曲をしれ 曲をわすれて調子をしれ 調子を忘れて拍 子をしれと云り 一 音曲ならふ条々 先文字を覚る事 次ニ声の位をしる事 次ニふしを覚る事 次ニ曲 を色とる事 次ニ心ねを持事 つゝみ扇ひやうしは初中後ニ入り■へし 是に二あり 又 音曲になまる事 曲なまりハ不苦 文字なまりハわろし 一 声をつかふへきやう こゑのむきたる時をうしなはしとたしなむへし わうの声をハたすけてつかひ しゆのこ ゑをはをして使へし 宵は物数をうたひ暁ハ少うたふへし 返々声のむきたるとおもはん 時をうしなふへからす 一 音曲にかるきハよしはやきハわろし 静かなるハよし したるきハ悪し 〈以下、五十音図のかたちに配列されている〉  喉―ア(喉)―イ(舌)―ウ(唇)―エ―ヲ   ―カ(喉)―キ(舌)―ク(唇)―ケ―コ    ―ヤ(喉)―イ(舌)―ユ(唇)―エ―ヨ 二四(イエ)(本末―舌)相通  三五(ウヲ)(内外―唇)相通 アカヤ相通 サタラナ 相通 ハナワ相通 舌―サ(喉)―シ(舌)―ス(唇)―セ―ソ  ―タ(喉)―チ(舌)―ツ(唇)―テ―ト  ―ラ(喉)―リ(舌)―ル(唇)―レ―ロ  ―ナ(喉)―ニ(舌)―ヌ(唇)―ネ―ノ 唇―ハ(喉)―ヒ(舌)―フ(唇)―ヘ―ホ  ―マ(喉)―ミ(舌)―ム(唇)―メ―モ  ―ワ(喉)―井(舌)―ウ(唇)―エ―ヲ クエト書テケト読 ク井ト書テキト読 以上 右此一巻於家一段秘す之処 不残候得共御入魂之間 写進■ 努々不可有他見者也如件 延徳二年(庚戊)二月日 金春八郎 センホウノ事也 秦元安在判 常門彦次郎殿参 含咲事也