193-47〔謡秘伝鈔〕イ11-00354  開口 一 (上)夫天地の長久ハ道徳の道より出 君臣の安栄ハ精広の政に治る 依て国ハ泰平 の時刻民は順億の果に誇 是則聖主の明得に非といふ事なし 一 (上)夫ほつしやう山動かねハえんきの海も静也 里旧の季を並てハ観呉楽際もなし されハ君は武運目出度ましますにより東夷西戎南蛮北狄をゐなから静めおハします 是に 依国富民穏か成も只是君の御成道によつてなり 一 (上)夫椿葉の八千代経ても鎮なるに同しくめくミは松花の秋辺に咲増るか如し 神 の加護有仏の慈悲有二世の願三世の御恵叶ハせ給ひて目出かりける御代とかや 一 (上)夫萬木に風治て松に千年の色増り遠山に残朝月ハ霞の中の残雪と見す 楊梅桃 李の梢にハ春の風治まつてなひき随う御代とかや 一 (上)夫弓箭ハ半月の粧を学ひ流一張に矢をとハせ されは桑の弓蓬の矢にて怨敵を 平け代を治め悪魔を払たからなれは弓ほとの物よもあらし 一 (上)夫政を治る事 譬へは北辰の其所にゐて衆星の共か如し 上一人の御恵深けれ ハ下万民皆栄花に誇 是則本立て道生当代たり 一 (上)忝も当寺伽藍ハ晨夕健立不退伝の御寺にて御座す されハ庭を飾る樹も釈迦樹 影に置露も吉想相結縁見仏の輩きえかつかうの壇穏西より来るも仏弟子東よりあつまるも 善男よ寔にめてたき御寺とかや 一 (上)忝も当る伽藍ハ長生殿にて春秋栄へ立や鳥居は阿字本来の不老門にて日月遍き 栄花の門 只此砌に敷ハなし  一 (上)夫天何を云や詩酒善行中に付て花は春陽のかさしとして其色つくは山の影より も深く其香秋津洲の外に流て遠し されハせいかい夜るの月家々の心思詩酒ハ春の風所々 の情にももるゝ方なきハ一重に花の徳成へし 一 (上)夫一天の太平ハ君臣貳つの道に顕ハれ四海国土の静謐は上を敬下を憐慈悲心寔 なれは神慮仏意に叶給ふ 栄花にもるゝ方もなし 一 (上)夫一天平かに四海波静にして民たう/\の果に誇 しんハあきつ洲の外に流げ ひはつくは山の陰よりも茂し賀辰れひけつもろ/\の時節堯舜延喜の昔と云とも今此御代 に敷ハなし 一 (上)夫梅は諸木の中に勝て其品々に増り匂四方に薫すれは君の寿命ハ春の日の如く 長閑き御代のためし也 目出たかりける時節哉 一 弓箭立会 松下渡 今春 金剛 (下)桑の弓蓬の矢の政寔にめでたかりけり あらありかたや/\ いさや更ハわれらも ?養か射術を伝聞弓はり月のやさ敷も雲の上まて名を挙弓矢の家を守覧/\(上)武士の 八十宇治川の流れにてみなもと清し弓はりの月遖めてたかりける おさまれる代の時とか や (上)釈尊ハ/\大悲の弓に知恵の矢をつまよつて三毒の眠を驚し愛染明王は弓矢を もつて陰陽の姿を顕はせり されは又大明王の文殊ハ養由と顕してらひを取て弓を作りあ ひせんを顕ハして矢となせり 又わかてうの神功皇后は西東の逆臣を退け民堯舜を栄へた り 応神天わう八幡大菩薩源清し石清水流の末こそ久しけれ 一 船の立会 松下渡 観世 宝生 (上) 名所ハさま/\多けれと海辺ことに勝たり乗物多しと申せども船に過たる事ハな し漕やこけとよ渡し守/\をしに押せとよわたし守(上)利生方便の朝霞(上)水波盗賊 の恐なく災難を去つゝ牛馬■属豊かにて真実たのしかりけり悦びも令も年々にます鏡 さ ひわひも栄へも時々に満しほの棟の門を便にて利生の門に入なんやりしやうのかとに入な ん 一 尺八十二調子図 田楽久阿弥伝の可秘(云々) 一 一越調 ● ●●〇〇 呂 陽 昼 祝言 十一月 土用 子時 脾(ヒノ)臓 口  味甘 戌巳 中央(方) 色黄 筋司 唇(クチビル)宮胃府(イノフ)(二尺六寸 モノ ハミ) 肉 (乳成女) 一 断金調 ● ●〇●〇 同前 祝言 十二月 丑時 一 平調 ● ●〇〇〇 律 陰 夜 大腸 愁 正月 秋 虎時 肺臓 鼻(ハナ)味 辛 庚辛 西 色白 金 息司(イキノ) 商 一 勝節調 〇 ●●〇〇 同前 愁 二月 卯時 一 下無調 ● 〇●〇● 同前 愁 三月 辰時 一 双調 ● 〇●〇〇 呂 陽 昼 祝言 四月 春 巳時 肝臓 目司 味酢(スシ)  申乙 東 色青 木 筋爪 角 謄府(タンノフ)ツハキ カスハキ 泪 一 (梟)黄鐘調 ● ○〇〇〇 同前 祝言 五月 午時 一 黄鐘調 ● 〇●●● 呂 陽 昼 祝言 六月 夏 未時 心臓 舌司味苦 両丁 南 色赤 火 血司 三焦 徴 小腸(チヤウ)府 (二丈四尺) 一 ■鶏調 〇 〇〇〇〇 同前 祝言 七月 申時 一 盤渉調 〇 〇●●● 律 陰 夜 愁 八月 冬 酉時 腎(ジンノ)臓 耳 味 塩 壬■ 北 色黒 水 骨(歯成) 羽 膀胱(ハウカウ)府 (屎 尿) 一 神山調 〇 ●●●〇 同前 愁 九月 戌時 一 上無調 〇 ●●〇〇 同前 愁 十月 亥時  右ハ竪伝の 努々不可有外見候 但一人赦也云々 一 五韵 (舌内 広ル カハラヤクワヒマナサ 舌内 迫ル(セハマル) ヨセネトモ ホレテコメニケ) 〈図あり 五十音がそれぞれ行と段に線でむすばれる〉 あいうゑを 口―入(イル)喉(ノトニ) かきくけこ 口―出(イタス)歯(ハニ) さしすせそ 口―少舌(シタ) たちつてと 舌 なにぬねの 舌―喉 はひふへほ 唇 まみむめも 唇 わいうえお 喉 らりるれろ 舌 やゐゆゑよ 喉 一 祝言 神祇等 祝一のみに非す 君をゆわひ代をいわひ国を祝あるしをいわひ友をゆわひ我身を祝久敷事 を顕ハし悦ひ幸をいふに付ても其心まち/\也 しかもよのつねにハ君を祝春久しき御代 を鶴亀の齢に寄松竹の替ぬ色にたとへ玉椿の千代にためしを引さゝれ石いわほと成程を待 天の羽衣なつとも尽石によそへ浜の真砂岩打浪に寄てもかなしからぬ身をほめ御裳濯川石 清水のなかれ久しきかけを移し八百万代の神達守給ふ事を仰吹風も枝をならさす雨も時を たかへす民のかまとに煙たえす御調物の道もさかへぬる心なとをいふへし 若そのゆへあ らんときハ人をも身をもことにより折にしたかひていわはん事同し心也 (きみか世をあ まのこやねのみことより いわひはうめしひさしかれとは) 一 幽玄 眺望等 初春の長閑成日に花を詠山辺ならは高根に懸る白雲を望ミ霞の間よりほのほの顕ハれたる 梢を詠山も雲にうつもれぬるをかへり見霞渡れる遠村を見て誰すむ里成らんかきりも見え ぬむさしのの尾花かすゑに入日を詠海のほとり波間にうかふ沖の釣船を望ミ塩路はるかに しまかくれ行舟を詠うら/\に立上るもしほのけふり空に消行方を思ひ野原しの原分行た ひ人をのミ雲間にきえ行かりのゆくゑを思ふ心也(夕くれになにはのうらを見わたせは  かすみにうかふをきのつりふね) 一 恋慕 有品也 初たる恋見ても聞ても思い初 程なく思ひハ空にみちぬとも云 池水によせてふかき心の 底をいう 又たますたれのひまより見てせりつみし昔を思ひにしき木をけふたて初てうけ ひかん事をあやふミむろの屋しまをかこちてむせふ思ひをしらせて岩間の水にたとへても らし初ぬる心也 又忍ふ恋は別の心也 かよふ心はひか事也 心よく忍ハんと思ふ也 ほ の聞ゆる迄も心計ハ猶知れしとつゝむ心也 袖の涙を露といひなせとも色付まゝにかこつ 方なしとも云 何となく打なけかるゝけしきも聞知見知人もや有らんとつゝミいつも見る 月なれとも此頃の詠しるゝ忍ふ山にて秋の露の色を厭音無しのたきをたつねてねをたに安 くなるはやとねかひ軒におふる草の葉のつゆも身をつめは哀也 いはての森の名も心の中 に思ひ知れて消なん跡迄も世のはかなさに云をかんなと心ふかき心也 人に知れぬ恋と云 ハ我身ハ必す忍ハんとしも思ハね共おのつから人の知ぬ心也 難波江のあしに任せて顕か たき下禰を恨 もにうつもるゝたまかしはの人しれぬ事を嘆 むな敷朽ぬる袖をふかき谷 の埋木によそへ啼とも知ぬ音をみやまの鳥の声にも思ひよすよし(しのふれといろに出に けりわかこひハ ものや思ふとひとのとふまで) あはさる心は行糸に寄てあはすハ玉のたとえぬるき思ひを山路にたとへてあふ 人もなき由を云 恋をのみしかのうらに見る目のなき事を嘆きあハぬ名を惜ミ逢坂を越え かねて赦さぬ関守を恨ひたち帯に寄て神もつれなき契を恨(こひしなんのちハなにせんむ まる身の ためにこそ人のみまくほしけれ 一 哀傷 無常等 常になしとハ世のはかなき心也 かけ路うの有かなきか成世をいとひうつせミのむな敷か らをかなしひあたし野ゝ根なし草に身をはかなき末のつゆもとのしつくを見てもをくれ先 たつためしを思ひ槿の夕かけまたぬ習をかなしひ朝の露のひるまもあた成事をいとひ行末 を嘆きいなつまの光にたとへ水のあはにまかへあすか川の淵瀬に寄て定なき世を哀ミきの ふ見し人もけふりに付て先立人をかそへてもいつ身のうへにならんとかなしひいつの日を かきりにていか成野へのつゆとか消なんと思ふ成へし(すゑの露もとのしつくやよの中の をくれさきたつためしなるらん きえはてんつゆのうき身のをきところ いつれの野への くさはなるらん 一 闌曲 有口伝之 かゝたるいはほなとに一輪くれなゐの花さきたるを見る如し 但し前四音の心も可含歟 一 声を可遣條々 ふとき声を細くなすへきやうは広野又ハ川の瀬なとの鳴所へ出て高き 調子にてよひ暁に声を遣て後に座敷なとのいかにも籠たる所にてうたへはわか心にも聞人 の耳にも細く聞ゆる也 一 細き声をふとくなさんと思ハゝ木かけなと又いつくにても響のあらん所にていかにも ひき調子をもつて口の内をゆるりと持少口をひろけて謡へし 能々使入ぬれハふとくおほ ゆるなり よく/\くふう有へし 一 声に二のさかゐを意得てつかうへし しゆのこゑをはよいに物かすを少使さて暁物か すを多つかふへし 宵にハくせまひ五ハかり暁物かすを十あまり謡へし 一 あふの声をは宵に物かす十計遣暁五六遣へし いかにも納声をうつくしくつかふへし かやうにつかひ候時の薬有口伝之 如此声を仕入候へハしゆの声とわふの声と合音と申 也 よく/\工夫すへし  一 暁声とハ申伝之候へ共夜るにハ限るへからす 昼うたふ事第一也 多口伝之意也 一 音曲に序破急有之 初心の時はいろは字にうたふへし 二番(に)色とるへし 三番 (に)拍子を可知 音曲の道をも習いて健者ふりしてうかめたてをせハやかて音曲さかる へし たとへハ盲目の馬に乗たるか如し 有人左様にうたひてもをもしろきか肝要にてこ そあれと云人有之 それハさにても有へく候へとも馬よけれハ働面白し 乗てハ知す候  口に任する迄にて候を意得ぬ人のおもしろきとほめ給ふ事をかしき事也 口伝在之 一 風姿花伝書(に)有之 稽古ハつよかれ しやうしきハよハかれ 是他に万(に)渡 れる覚悟也 一 息次所を人に知すへからす 謡に切所なくハてにはの字を一捨ていきをつくへき也  在口伝 一 曲の前をハ声を少つよくいひかけて曲をやハらかにやわらけ可謡也 曲面白聞ゆる也 一 謡初をは声をふとくいひ初へし 謡初よハけれは聞人心しつまらす 次第/\声をや わらけ曲をすへき也 一 謡の趣の眼をふさきをとかひをそらしうたひの長をハ甘草なとくゝみたる心地して謡 へし 上手にならい初心を忘すしてわか身を名人と思ふへからす 但又心おくしてハかな はす 余にふてたるもあしく 初心の意得ならふへきか 一 呂の声と云事 是ハくときにも似へからす 又くときのやう成へし 物をくとく声よ りも少物々しく云也 平家に似たるへし 如此呂の声呂の節曲何も上手次第に謡出へきと 覚えたり へたハ定たる所にても云得すと聞えたり 一 謡にいたる詞の所をハまへをやはらけつよくいひかくへし たとへハ峯山(天)富士 筑波愛岩山なとの事をはその趣に高く云懸へし鬼神武者なとをハ物々しく云へき也 如此 意得もつて上手と云へきか其ことハりに我心をなして実もと聞ゆる様(に)謡事上手の手 之也 一 にばぢうせじ ぢうせばにじ 一 序 破 急 一字(引)生スへシ 一 皮 肉 骨 一 栓字 の字事申口ヲツホメテ結へシ  一 二字結 終(申)有口伝之 一 謡をハ春夏秋冬と意得謡へし 一 しほる曲の事 是ハ空に矢を射上る如にいかにも声を絞りてひしくへし たとへハ立 声なり共たゝぬ様にしほるへし よはく云へからす左ありとて又声有のまゝ出せハ悪し  わらんへ女なとのしほりをハかくこ有へし口伝有 一 謡留の曲の事 たとへハうたひの中をハかろく水々とうたふとも謡留所をハ謡初たる 位にうたひ留へし のうの時の謡座敷謡手立はたとかはるへし 在口伝之 序破急と云事 ハ万事に渡意得たるへし 一 自家伝抄 片端 定能の注文世阿弥百七十九番 上品上の能数 夢々不可有外見候也 云々 追松 白楽天 放生河 合生 弓八幡 吉野西行 鵜羽 箱崎 御裳濯 伏見 実盛 忠 度 朝(トモ)長 貞任 朝(トモ)明 重衡桜 清経 卒都婆小町 松風村雨 千手 遊 屋(但異作) 百万 軒場梅 橋姫 井筒 野宮(但異作) 龍田姫 杜若 司土 源氏 供養(但異作) 当麻 浮舟 求塚 柏崎 角田川 砧 樞(山うハ) 濡(ヌレ)絹 班 女 大原御幸 雷鬼 琴 海士 檜(ヒ)垣 寄次(ヘノ)水 三輪 伯母捨山 花■(カ タミ) ■ 昭君 春日龍神 重(ヲモ)荷 綾鼓(但異作) 長良橋 船橋 葵上 道 成寺 貴布禰(金輪) 蘆苅 盛久 邯鄲 四位少将 洞八人形(空) 左国 安古喜 朱 天童子(幽霊) 天鼓(コ) 淡路 横山 猩々 碁(ゴ)(軒場荻) 七夕 左保山 呉 服 養老 白髭(八景尉) 源太夫 経正 八嶋 道盛(但異作 佐阿ミ) 田村 兼平  敦(アツ)盛 頼政 教経 江口 采女 誓願寺 雪葛城 二人司士 籠太鼓 籠義王 竹 雪 弾(タン)僧 女郎花 小督 俊寛 丹後物狂 蝉丸 歌占 住吉小尉 蟻通 小塩  西行桜 融 隠岐院 野干 藤渡 賤山 右近 反魂香 獅子 土車 東岸居士 西王母  金札 氷 岩船 浦嶋太郎 鼓瀧 難波梅 国栖(くす) 香椎 玉津嶋 光源氏 猿推 (エンコウ) 竹取雪 箙桜 是盛 巴 三井寺 桜川 関寺小町 墨染桜 咸陽宮 安 宅 景清 浜川 藤永 七騎落 春永 戸茂(トモ)(承久トモ云) 鷺 自然居士 舎利 (足疾鬼) 草投 鵜飼 松山鏡 錦木 藍染川 鞍馬天狗 樒天狗 車僧 野守鏡 一 夜天神 高野山 苅萱 釼殊 仏原 仏義王 十束釼 嵐山 木賊 鶏(ニワトリ) 太 山府君(フクン) 玉水 乙衡 高安 人形 鰯(ヨロ)法師 久米 馬遊 西城戸(和 泉三郎) 雲雀山 鱸三郎 果月 道明寺 護法(ヲウ) 禅師曽(異作)   右此百 七十九番上也 近来作の能の注文金春竹田善竹 楊貴妃 七郎方へ遣  定家(但異作)  蛙 春満方へ  和布苅 宝生方へ所望  芭 蕉 観世又三郎所望  玉鬘 細川殿御所望  富士太鼓(異作) 金剛所望  賀茂物 狂  松虫 観世又三郎所望  塵山 金剛所望  木引 大蔵所望  (霍)霍(ツル) 若 宝生所望  志賀忠度 宝生所望  葛城賀茂 宝生所望 目闇沙汰 観世又三郎所 望  矢立賀茂 宝生所望  忠信 宝生所望  桜場  鐘馗(セウキ)  野宮(但 異作)  庭鳥(異作)  樒 宝生所望  清重 宝生所望  早友  源氏供養(異 作)  葵(太刀堀云)  ■屋姫  当願暮頭  空也上人  谷行  八幡  西住    右此外能有と云共坊主存生間に作能の分古注の作者能の注文  元服曽我 宮増作  接待 同  石(ヲ)子(ニ)積(ツム) 同  秦(ハタノ)武 文 禅鳳作  小林 世阿弥作 六代 宮増作  文学 夜討曽我 宮増作  調伏曽我  世阿弥作  鳥追船 金剛作  望月 左阿ミ作  殺生石 同  藤原家持 同  項 羽 世阿作  安字 左阿ミ作  神有月 同  名越秡 同  粉川寺 宮増作  巻 絹 観阿ミ作  河原太郎 世阿弥作  垣衣(シノフノ)太郎 禅鳳作  馬乞佐々木  金剛作  逆戟 宮増作  温(ウン)天皇 同 石橋(シヤツキヨウ)獅子 同  盤 波 禅鳳  鉢木 観阿ミ作  悪源太 金剛  和泉小次郎 禅鳳  座敷論 金剛   小袖曽我 宮増  夕顔上 世阿弥作  籠尺八 観阿弥作  虎送 宮増作  志賀黒 主 世阿弥作  慈童 禅  松尾 世阿弥作  御燈松 十郎作  綾鼓 世阿作   破丹生(ウ)八幡 十郎作  楊家 世阿作  文割曽我 宮増 菊水 観阿弥  愛寿  十郎  鷲山 禅鳳  (瀉)書瀉桜 観阿弥作  千引石 世阿作  幽霊(レイ)熊 坂 宮増  糸繰(クリ)黒塚 (江州へ遣)世阿異作  放下僧 (江州へ遣)宮増  皇 (垣衣) 十郎  俊成忠度 世阿  雉(キン)野 禅鳳  滝口(横笛) 世阿作  ? (ヌエ)(幽霊) 同  山僧 観阿弥  弾僧 禅鳳  朝顔(小手巻) 異作  夕顔 上(異作)  蜷河  延年(奈須与一) 宮増 那須与一(玉虫) 十二次郎  満中  宮増  頼風(女郎花申) 佐阿弥作  末松山 禅鳳  形見送 宮増  御坊曽我 同   引切曽我 同  羽衣 世阿弥作  平山 佐阿弥作  守屋太子 世阿弥作  吉野天 狗 佐阿弥作  菅少相 同  船弁慶 世阿弥作  春日神子 同  経書堂 外山作   城戸巴 十郎作  実検実盛 金剛作 小手巻 十二次郎作 千年馬 外山作  野守鏡  禅鳳作  鸚鵡(オウム)返 世阿弥作  姫子松(東国) 金剛  絃声(ケンショウ)  金剛  千人切 外山作 ? 十二次郎  十番切 禅鳳  相坂目闇(東国下) 世阿 作  生贄(イケニエ) 宮僧 育(イ)王山 禅鳳  花野家 世阿弥  門江口 十 郎  長兵衛(はせへ) 禅鳳  聖義勢至 宮増  楚慶皮仁(曽船) 外山  高野 物狂 佐阿弥  侍従重衡 同 双紙洗 観阿弥  聟入自然居士 宮増  安犬 佐阿 弥  陸浦 同  節木曽我 宮増  舞車 禅鳳  啼不動 世阿弥  斉宮絵馬 金 剛  御輿振 十郎  飯沼(イゝヌマ)(上田云) 十二次郎  朝稲 世阿弥  橋弁 慶 佐阿弥  顕在朱天童子 宮増  須磨(行平) 世阿弥  左奈田(分蔵) 金剛   八剱 外山  婆蒼(バサウ)天 世阿弥  常陸帯 同 熊手切 金剛  二度懸 世 阿弥  羊(ヒツジ) 同  綱 同  玉嶋川鮎 外山  大頭(ツ)久 佐阿弥  成 明坊(宇治橋) 金剛   安達三郎 十郎  楠(クすノ)木 禅鳳  楊弓物狂(由 良) 世阿  東題紀(タイキ) 同  金菊 同  磯屋(春近) 世阿弥  泰平楽  禅鳳  ■通 世阿弥  安古屋松 同 立紀   右此外古注の作者各雖数多有相定用 の異作とハ有口伝 一 世阿弥百余番の内今春家の能に相定上品云 追松 放生川 白楽天 相生 弓八幡 吉野西行 鵜羽 箱崎 御裳濯 源大夫 金札  国栖 西王母 佐保山 呉服 養老 白鬚 嵐山 実盛 忠度 清経 恒正 朝明 朝長  屋嶋 道盛 田村 兼平 箙梅 卒都婆小町 松風村雨 千手 遊屋 百万 橋 姫 井 筒 軒場梅 野宮 龍田姫 杜若 二人司士 檜垣 寄辺水(次水) 三輪 花■  葵 上 江口 采女 誓願寺 雪葛城 籠太鼓 三井寺 墨染桜 碁 海士 砧 雪鬼 三山  春日龍神 昭君 恋重荷 名柄橋 船橋 道成寺 貴布禰(金輪) 朱天童子 榑風 隠 岐院 舎利 鵜飼 草投剱 樒天狗 車僧 野守鏡 玉水 ■ 横山 蘆苅 盛久 小督  安宅(十二人) 藤永 七騎落 苅萱 禅師曽我 橋立(丹後物狂) 歌占 土車 竹雪  咸陽宮 ■法師 邯鄲 空八(ウトウ)形 四位少将 佐国 安古喜 天鼓 女郎花 住 吉少尉 蟻通 西行桜 小塩 右近 藤渡 返魂香 獅子 融 目闇景清  自然居士  錦木 一夜天神 久米 七夕 綾鼓 鶏 山祖母(樞)   右此百廿四番不知位上品也  此能の位を知覚ぬれハ上手也 此外余能不可用之 又三十六番の能序破急今春竹田弥三郎 元氏(仁)伝秘事此能の儀を以て何も意得可行也 追松 序  合生 破序破  弓八幡 破の破  御裳濯 序破序  西王母 破  佐 保山 破  実盛 序の破  忠度 序破序  清経 序破急  朝長 序破  屋嶋  序破  田村 序破急  卒都婆小町 序破の破  松風 破序破  千手重衡 序破の 破  百万 序破  井筒 序  野宮 序破の序  司士 序破序  源氏供養 破序 破  当摩 序破急 柏崎 破序の破  角田川 破序  山姥 破序急  葵上 破急   三井寺 序破序  海士 破急  昭君 序急  横山 序破  橋立 序破  邯鄲  序破急序  空 序破急  融 破急  源太夫 序破  小督 序破    右此能の内十六番世阿弥作也 佐渡嶋(ニ)おゐて書之 元氏作と号して広也 其 後又二十番作して合三十六番元氏方(え)渡也 序破急顕(シ)記置如件 一 鼓の破にて太鼓の急の能有 謡の序にて鼓の破にて行事有 序にて謡て太鼓の急事有  破にて謡て急(へ)渡す事是を能の闌聞闌拍子ト云也 鼓ハ破太鼓ハ急謡ハ序にて行能有 可シ 此儀以其々の道を可立也    今春家の四十五番坊主(ニ)以此注文重而所望仕り序破急を付家の能のする注文の 事 呉服 破  鵜羽 序破の破  箱崎 破  恒正 序  朝長 序破急  道盛 序破    箙梅 破  軒場梅 破序  杜若 序破急 桜川 序破の破  誓願寺 序    江口 序  葛城 破序  龍神 破急  恋重荷 序破急  舟橋 破急  道成寺  序破の破  車僧 破  蘆苅 破 盛久 序破  七騎落 序破  歌占 破  土車  破序  咸陽宮 破  四位少将 序破  女陪芝(オミナメシ) 序破急  西行桜 破 序  小塩 破序  藤渡 序  采女 序破の序  自然居士 破  錦木 破急 太 刀堀葵 破  安宅 破序  三輪 破序  天鼓 破序  浮船 破  兼平 序破急   安古喜 破  蟻通 破序  貴布禰 破  猩々 序破の破  鵜飼 序破の破  護 法 破    右此四十五番ハ世阿弥(え)重而所望の分也  一 竹田今春家(ニ)世阿弥陀仏(え)意(ヲ)請(タル)能序破急 吉野 破但序破  金札 破  養老 序破急  大原御幸 序  花■ 破序  綾之 鼓 破序  楊貴妃 序  定家 序  芭蕉 序破の序  玉鬘 序破の破  富士太 鼓 破序  松虫 破急  反魂香 序  早友 破  谷行 破序  景清 破序   蝉丸 破  舎利 破  国栖 破序  鶏 破  龍田姫 破序  草投 破序 伯母 捨山 序破の破  求塚 破序  若 序  果月 破  俊寛 序  夕顔上 序   三山 破  戸茂 序  啼不動 破  放下僧 破序  黒塚 破  橋姫 序  寄 辺水 破序  檜垣 序破の破  摶風 序急  白楽天 序  二人司士 序破  岩 船 破  遊屋 序破拍子ハ果急    右序破急此能の心を以何ヲモ可知也云々 嘉吉二年(壬戌)歳十二月書之 世阿弥 在判 一 十躰次第 能の覚悟有へき也 用心の事 第一祝言の心 合生松 弓八幡 此たくひの能ハ国を治夫婦の契ふかき故第一祝言に是を 用る 何もかる/\としてうきやか成へし 第二幽玄の心 遊屋 江口 小塩 此たくひハさらめきたるかたを用る花やか成へし  水々とうきやかにうたふへし 第三恋慕之心 班女 千手 小督 重荷 此たくひハあまた有と云へと 只恋路斗心用之 第四哀傷之心 卒都婆小町 松風 角田川 井筒 野宮 此たくゐ いきてはなれ亡魂の 夢幻の色なきふち衣成てゐ也 脇も同心也 第五田夫野人之心 横山 海士 葛城 木賊 芦苅 大原御幸 此たくひおとろへはてた る体也 をのつからの野人にハ非す也 第六神祇之心 御裳濯 三輪 春日龍神 源太夫 追松紅梅殿 此たくひハ神所に及て其 の心しんかんにそみたる姿心成へし 第七仏所之心 当摩 墨染桜 誓願寺 邯鄲 此たくひ仏所を望てとくたうの道をもとめ 本としたらんを尤用 第八無常之心 盛久 摶風 此たくひ何もうれい思ひ入たる姿詞成へし 但わきにあひて の口伝在之 第九述懐之心 藤渡 濡絹 橋立 西行桜 此たくひ何も述懐之方本と意懸 上手ハ心を もつてやうとなす 下手ハ姿をもつてのうとなす 口案して其者意に応するやうに心かけ よ 第十仁儀礼智信之心 七騎落 土車 蟻通 此たくひハ神をうやまひつかへ仏をねかハん ハ是別儀也 親之命にかハり他の人の詞をそむかすたかへさらんを尤以むねとすへし 只 情有ていをなけかさらんものは木石にことならす 大方世上はかく有物と斗意得ては 謡 にも能にもならす 延年風流一曲をねかハんにハ先其能之心に身体心を成して能とし謡へ ハ 誠に叶たる延年也 さもなくしてうか/\と能になせは竹に木をつきたる体成へし  延年之道をたしなめハ 此十体之心にして形気を以て情有へし 口伝在之    物狂に多之意有 第一にわかれをしたふ物狂の事 班女 蝉丸 名越の秡 これらの物狂ハわかれをしたひ てくるう也  第二にわれと狂物くるひの事 百万 角田川 桜川 橋立 柏崎 敷地物狂 これらハ思 ひ乱しやうとくとくるふ物くるひ也  第三 姿計にて心をめくらしてはかり事にくるふ 三井寺 籠太鼓 花■ 土車 此心は 何もいかり事也 心中ハくるハす也 第四 物のけにて狂物くるひ 浮船 歌占 ? 二人司士 此心には物のけにてくるう 第五 執心のものくるヰ 松風 卒塔婆小町 此心ハしうしんの物くるひ也 かくの如く いつれも心かハる事なれは能の意一色に定らす 其心わけ/\成へし さのミ此上にこと 成功有へからす 能の注文云三番ハ少し 五番ハみたらす 七番に相定事也 一 拍子の各品々 枕拍子 声枕の拍子 程の拍子 男拍子 女拍子 浮押の拍子 引取 付の拍子 八拍子〈第一也〉 此外に拍子の沙汰有へからす 一拍子と云事ハ程をまたさ る謂也 をか敷事也 物にあへとも一拍子と云ハこす拍子にて物にあハさる知人のわさ也  程を待拍子に乗て行へきか 萬事五段にはつるゝ事なし 口伝在之 慶永二十一年甲午六月吉日 一 夫延年風流に可随道ハ道に有 其家々ヲ一欺 其家に生る共 不知者ハ道者に非す  最知うと成へし 其家を習得たる者ハしらうと成共其道者成へし 我身きよう利根成とて 其家の道を押へからす 家に生付たる者ハ仮初の物語も一角有へし 耳をすまして聴聞せ よ 学に入て他行の家を我道にせよ 初心成者をハいさむへし あらそふ事なきを専とせ り 万情知一情をなんせされ 色々様々い説有之者也 相構々人々詞を消へからす 不知 事ヲ我人に名残得たりとて知顔にすへからす しらさるハ不被知せり 是知れる也と云へ り 年寄たり共道をたしなむへし 朝に道を聞て夕部死共可也と申伝也 謡をたしなまは 五音四十五の文字に外留ゝ有へからす 仍如件 去声 入声 平声 上声 所作共に平声 の声也 上声より入声へ移ハ鉾楯のはかせの心也 標結是也〈図あり〉 すむ字の声四声 へ何も渡 新濁声 本濁声 能化去声より平声移時如此云也 能求去声より上声へ移時云  能入去声より平声へ移声 異名〈上の一字かなの時平声より上声は移る声也〉 等流身〈是 ハほの字の当也 是三字かななれは是皆流也〉 ■王天 東宮〈新濁〉 学士〈是ハ本濁 也〉   ■ (下)されはにや二はしらの御神のおにころしまと申も此一嶋の事かとよ 凡此しまハし めて大八しまの国を作り紀伊国いせしま日向ならひに四のかひかんをつくり出し日神月し んひる子そさのをと申ハ地しん五代のはしめにてみな此しまに御出現なかにもくわふそん ハ日向の国にあまくたり給ひて地神第四のほゝてみのみこを御出生 実ありかたき世代と かや (上)天下をたも地給ふ事 すへて八十三万六千八百余歳なり かゝるめてたきわ うし達に御代をゆつりはのこんけんと顯おはします いさなきいさまミの神代も只今のこ くと成へし   上宮太子 (さし)きんめい天皇三十二むつき一日の夜半に御むさうの告有 こんしきのそう来給ひ きさきにつけてのたまはく われにくせの願あり 則きさきの御たヰなひに宿るへしと有 しかは 后こたへてのたまハく さうかたヰなひハくえなり いかてたつとき五たひを屋 とし給ハんとのたまへハ そう重而のたまハく我はくえをいとハす 只望らくはにんけん に着別せんか為也 后しするに所なし ともかくもと有しかハ后の御口にとひ入給ふと御 らんしてけうけつのきにかゝやき 松風夢をやふりて五更の天も明にけり 御門此由聞召 悦の色をなし給ふ 后必すせうらんをうみ給ふへしと有しかは ひま行こまをつなかねは たいはつたヰかの池のみつすまてにこれることくにて 十二月と申には南殿のみまやにて 御さんへひあんわうし御誕生なる 馬やとのわうしと申も上宮太子の御事也   香椎 (さし)皇后のせんしの趣つまひらかに仰有けれは日本ハ神国也 けんわうたり いかて 宣旨をそむくへき しかも龍女の身として人わうの后に事 かたゝんつうは面白成へしと て此二の殊をフけり 干殊と云は白きたま満殊と云は青きたま豊姫藤大臣に持せ参らせて 三日と申に龍宮を出皇后に参らせさせたまひけり 彼豊姫と申は川上の明神の御事 あと めのいそらと申ハ地/\前の国にてはしかのしまのみやうしん ひたちの国にてハかし満 の大明神のやまとの国にてハ春日の大明神一躰分身同たヰいみやう顯ハれて御代を守りた まへり 其後皇后ハ仲愛天わうの御しやくを忝もとり出し かすひのはまに有 椎の木の みつえたにをき奉りたまひて 異国の合戦を守りのかみとならせ給へとくとき申させたま ひけれハ 守り給ふへき由返事有そありかたき 此かしゐのかうはしき子 諸方にみちみ ちて逆風にもくんすなる えんしやうしゆにもことならす さてこそ此うらもとハかすひ といひけるを かうハしき椎の地にかきあらためて今迄香椎のうら風の治る御代そひさし き   嶋廻 (下)来たに向へハかりかねの雲路を分てかへる山 あらちの山のあらたまのとしの子と なれは 待し花かとうたかふハ消残雪の木の目山 ひかしは伊吹下風のはけしきにかすま ぬ付きのよこの海 南をはるかに見渡は三上犬上鏡山 身慣し夢の床の山 いさと答へて つゝめとも契はよそにもる山 猶もそなたの?敷 しのふ思ひをしかの故郷 花そのゝ花 や散らんと思ひなからのうひにたつ心や物に狂らん ひえ井山と申ハ 余名高山なれは詞 も及かたしかの山につゝきて次第に末を見渡せハ (上)横川の水のすゑかとよ ひらの みなとの川音は 嵐やともに流松いはこす波の打おろし 神といはふも白鬚の沖成 松も 高嶋やゆるきの森のさきすらも 我如くひとりハ音をよもなかし かれよりも是よりも只 此しまそありかたき とうなんくわ女か船の中見すはかへらしとちかひけん ほうらひき うと申ともにはよもまさらし 汀の清水いはほにかゝる青苔せひ山おほひかゝつて何も友 に青きうみ りよくしゆかけしつんてはうをも渚にのほり 月海上にうかんては兔も波を はしれり すへて耳にふれ目に見ることの何かは大慈大悲のさいくわんにもるゝ事や有   賀茂物狂 (下)我もそのしてに泪そかゝりにき 又いつかもと思ひ出しまゝ涙なからにたちわかれ て都にも心とめし あつまちのすゑとをく聞ハその名もなつかしみ 思ひ見たれし忍すり  たれ故そいかにとかこたんとする人もなし ひなの長路にをちふれて 尋るかひも泣/\ その面かけの見えされは 猶その方のおほつかなく みかハに懸る八橋の 蜘手に物を思 ふ身ハいつくをそこと知ねとも きしへに波をかけ川小夜の中山中/\に 命の内は白雲 の 又越へしと思ひきや 花紫の藤えたのいく春かけて匂覧 なれにしたひのともたにも  心おか辺の宿とかや つたの細道分過てきなれ衣をうつの山 うつゝや夢に成ぬらん 見 聞に付てうき思ひ 猶こりすまの心して 又かへりくるみやこ路の 思ひの色や春の日の ひかりのかけも一しほの (上)柳さくらをこきませて にし木(を)さらすたてぬきの  霞の衣の匂やかに たちまふ袖も梅かゝ乃 花やか成し春過て夏もハやきたまつ■〈虫損〉  けふ又花のミやこへゆきかふそての色々に きせんくんしゆのよそほひもひるかへすたも と成けり   由良 (下)由良の湊のとまりふね いつミの国に着しかは しの田の森の葛の葉の しハしま たんと思とも我にハ人のかへらす とハれし比は待なれし 夕部のさかひの鐘をっく難波 の寺に参れはかの国にむまるゝ心ちして 西をハるかにふしおかみ 入江のあしのかりの 世にいつまて物を思ふへき こき墨染にさまかへ まことの道にいらハやと思ひなからの ハしはしら 千度まてくやしきハすてさりし身の古へ過にし方のたひ衣 春も中はに成し かハ 花の都に上て清水寺に参れは 大慈大悲の日の光えん/\と有地主のさくらまこと にこんけんのちかひかや 花のあたりハ心して松にハ風の音羽山 おとに聞しよりもなを まさり たつとき面白さに下向の道も覚えす 角て夜にいれとまとろむ隙もなくして御名 をとなへてゐたりしに 同しさまにつやして近くよりそふ女あり かたらひよりて申やう  労ハしやかた/\ハ思ひありと見えたり 思召事あらは心の内を話て御なくさミもあれか しと 念比にかたれは頼もしく思ゐてたちよるかけもなき身なり さまかへたきと思せは  いたハしき事哉 わかすむ里にしはらく あしをやすめ給ひて まことにさまをかへたま はゝ 然へきあま寺に引付奉るへし とく/\とさそハれて 身をうきくさのねをたえて 清水寺をたち出て 猶も思ひをしかのうら大津とかやに下行 (上)やハしの浦のわたし 船さしてそことも白波をぬす人とハ思ハて東路さしてうられ行 過にしかたもおほえす  行末ハなをとふたう見のかけ川の宿にとしたけて 又越へしと思ひきや 命成けり さよ の中山中/\に残身そつらき   松浦物狂 (さし)生国ハつくし豊前の者さひしよハまつら熊名字をは申さぬ也 去人のつまにて候 しかおツとはさんしんの申事により むしツのとかをかうふりて 都へ上りたまひしか  ■〈虫損〉つて音信聞されはししやうをたにもわきまへす 余わかれのかなしさに 有夕 暮にわれら只二人たましまやまつらの浦にたち出る 都の方へ行ふねの便を待へき所に男 一人来りて われ此ふねのせんとう也 御(す)かたを見奉るに よのつねならぬ人なれ は いたはしく思ひ申也 とく/\船にめさるへし 都迄ハ送り届申さんと懇に申せは  誠そと心得て手を合らひまひす (上)いそき船に乗うつる 其時すひしゆ梶取とも 吹 風に帆を上て海路を走行程に ほとなく津の国須磨の浦に着 波の関守所なれは此うらに 船をこき留る   白鬚 (さし)我八相成道の後ゆふけうるふの地何れの所にか有へきとて 此なんせんふしうを あめねく飛行して御覧しけるに まん/\と有大かひの上に 一切衆生悉有仏性如来常住 無有變易の波の声 一葉の蘆にこり堅まツて一の嶋となる 今の大宮こんけんの波止土濃 也 其後人寿百歳の時 しツたと生れ給ひて 八十年の春の比 頭北めんさひうけう抜提 の波ときえたまふ されとも仏ハ常住ふめツ法かひの妙躰なれハむかし蘆の葉の嶋と成し 仲津国を御覧するに時ハうかやふき合すのみことの御代なれハ仏法のみやうしを人しらす  こゝにひえひ山の森さゝ波やしかのうらのほとりにつりをたるゝらう翁有り しやくそん かれに向て おきなもし 此地の主たらは此山をわれにあたへよ 仏法けつかひの地とな すへしとの給へは 翁こたえて申やう 我人しゆ六千歳の初より 此山のぬしとして 此 水海の七度まてあし原に成しをもまさに見たりしおきななり たゝし此地けつかひとなる ならハ つりする所うせぬへしとふかく惜み申せは しやくいふとにかへらんとしたまへ ハ (上)時に東方よりしやうるりせかひのあるし薬師 忽然といて給ひてよき哉や し やくそん此地にふつ法をひろめ給はん事よ われ人寿貳万さひのはしめより 此(所のぬ したれとらうおういまた われをしらすなんそ此)山を惜申へきハやかひやくし給へ 我 も此山のわうと成て友にこ五百歳の仏法を守へしとかたくせひやくしたまひて 二仏とう さひに去給ふ その時の翁も今の白鬚の神とかや   隠岐院 (さし)承久三年七月八日の日 時氏鳥羽殿にさんし申けるハ 世ハかふにて渡らせ給ひ 候也 御出家なくてハかなふましと情なく申上れハ 力及はせたまはすしてやかて御くし をおろされけり 綺麗の御姿を引かへて のうゑを御身に奉御にせ絵をかゝせ給ひて 七 条の女院にまいたせらる 女院御覧しあへすして 朱明門院と御等車あツて鳥羽院に御幸 ならせ給ひて 庭上に御車を立られけれハ一院も御すたれをかゝけつゝ 御顔計さし出い て只とく/\御帰あれと計にて御すたれをおろされけり (上)ほとなき人目の御名残 御 身も心ももえこかれ煙りの中のくるしひもかくやと思ひしられたり 更てたにかなしかる へき 初秋の夕くれに 哀すゝむる折ふしもあれ あきのやま風吹落て御身にこそハしミ わたれと隠岐のうミのあら磯の新嶋もりは(たれやらん 是かとよ) (上)角ても此所 に渡らせ給ふへきやらんと 御心中やすく思召るゝ所に 時氏又さんしておきの国へ流し 奉る (下)御供にハ男女以上五人なり せんひのけひけひもなく百宮のこせうするもな し けじんのたひにことならす 道すからの御ありさままことに哀なりけり さても此嶋 に渡らせ給ひて 海士のこほり苅田の郷といふ所に 御所をかまへたりけれは 只あま人 のすミかにことならす 昔ハはんとう仕参の内にして春秋をおくりむかへてたのしみつく る事なし 今ハとまやのひさしあしかきの月もりかせもたまらねハ ひつもつらし夜うし  女御かうゐのそのはい所もなく 月郷雲客の拝すもなし 只くわひきうの御泪にまとろま せ給ふ夜ハもなけれハ 此波たゝこゝ元にたちくる心ちして 須磨の浦の昔迄思召(出さ る)   西国下 努々不可有外見候可秘云々 (さし)城南の離宮に趣き都を隔る山崎や 関戸院に玉の御輿を舁居て 八幡の方を伏拝 み南無や八幡大菩薩 仁皇初給ひて十六代の尊主たり 御裳濯川の底清く 末を請(汲  続)御恵 なとかすてさせ給へき (下)他の人よりはわか人と ちかはせたまふなる物 を 西海のなみのたち残り 二度帝都の雲をふみ 九重の月を詠めんと 深く祈祷申せと も 悪逆無道の其積り 神明仏陀加護もなく 貴賤上下に捨られ 帝城の外に赴く 何と 成行水無瀬川 山本遠く廻来て 昔男の音を啼し 鬼一口の芥田川 弓屋なく井を携て  駒に任せて打渡す 馴し都をたち出て いつくにいなの小篠原 一夜仮寝の宿はなし 蘆 の葉分の月の影 隠てすめる小屋の池 生田の小野のおのつから 此川波にうき寝せし  鳥はいねとも如何なれは身を限とや嘆くらん 濺山の雨に水まさり濁れる時は名のミして 晒かひなき布引の 瀧津白波音立て雲のいツこに流るらん 五手船の余波に五百の船を作 りて 御調を絶す運しも 武庫の浦こそ泊なれ 福原の古京に着しかは人々の家/\も年 の三年に荒はてゝ 梟松桂の枝に鳴狐 蘭菊の叢に隠れ住 馴し名残も波風も 荒磯屋形 住捨て 只海士の子の住所 宿も定ぬ仮寝哉 相国の作置れし所々も荒はて跡宮の軒端月 洩金玉を受し粧花の軾をあつめしも たゝ今の屋うに思はれて昔そ恋しかりける (上)釈迦一代の蔵経五千余巻を石に書 蒼海の底に沈めて 一居の嶋を築しかは 数千 艘の船をとめふうはの難を助しハ有難かりし形見なり 世をうき波の夜るの月沈しかけハ かへらす  (さし)角て主上を初奉り 皆御船に召れけり 習ハぬ波のうき枕 思ひ屋るこそかなし けれ(はるかなれ) (さし)南殿の池の龍頭鷁首の御船そと (下)思なせとも寒江に 釣の翁の棹の歌また聞なれぬ声/\に沖なる?磯千鳥友喚つれて立強く 風帆波にさか上 り 櫓声は月をうこかす 和田の御崎を廻れは海岸遠き松原や 海の碧につゝくらん 須 磨の浦にも成しかは 四方の嵐もはけ敷て 關吹越る音なから うしろの山の夕けふり  柴といふ物ふすふるも 見馴ぬ方の哀なり (上)琴の音に引とめらると詠しけん 五節 の君の此浦に心を留て筑紫船 昔は上り今下る なみ路の末そはるけき 傾くつきの明石 方六千余の歳を経て 問す語の古へを思ひやることそ(床しけれ かなしけれ) 船より 車に乗移り しはし爰にと思へとも すまやあかしの浦つたひ 源氏のかよひし道なれハ 平家の陣にハいかかとて又此うらをさし出す 塩瀬は波も高砂や尾上の松の夕嵐 船をい つくにさそふらん 室のとまやの苫屋形 影は隙もる夕夕月夜 遊女のうたう歌の道 う き世を渡るひとふしも寔に哀成けり 習はぬ旅ハ牛窓のせとの持塩心せよ 宝あらけなき 武士の梓の弓の伴の浦 にきわう民のかまとの關夢路をさそふ波の音 〈上〉月落鳥啼 霜 天に満てすさましく 江村の漁火もほのかに 半夜の鐘の響は客の船にやかよふらん ほ うそう雨滴て知ぬしほ路の梶まくら 行敷袖やしほるらん 荒磯波の夜るの月 沈しかけ ハかへらす   東国下 (さし)花の洛を出しより音に鳴そめし賀茂(川)や末白川を打渡り粟田口にも着しかは 今ハ誰をか松坂や四宮河原四の辻 (下)關の山路の村時雨 いとゝ袂やぬらす覧 知も しらぬもあふ坂の 嵐の風の音さむき 松本の宿に打出の濱 湖水に月の影見えて 氷に 浪や立ぬらん 越を辞せしはんれひか 扁船に棹をうつすなる 五湖の煙の波のうへ 角 やと思ひ知れたり 昔長男の山里も都の名をや残すらん 石山寺をおかめは是又救世の悲 願の世に越給ふ 御誓頼もしくそや覚ゆる 瀬田の長橋影みえて 長虹波につらなれり  浮世の中を秋草の 野路篠原の朝露 をき別行旅の道幾代な/\を重ぬへき (上)露も 時雨も守山は 下葉残らぬ初紅葉 夕日に色や増るらん 古へ今を鏡山 形ちを誰か忘る へき いさむ心はなけれとも 其名計は武者の宿 また道路浅茅生の 小野の宿より見渡 せは ふきんをすりし磨針や はんはと音の聞こえしは 此山松の夕嵐 旅寝の夢もさめ かひの見つからむすふ草枕 誰か宿をも柏原 月も稀なる山中の 不破の關屋の板ひさし  久敷ならぬたひにたに 都の方そ恋しき 垂井の宿を過れは 青野か原は名のミして ミ な夕霜の白砂に 枯葉にもるる草もなし かゝるうき世にあふはかや 捨ぬ心をく井瀬川  墨俣あしかの渡して 下津萱津打過て 熱田の宮に参れは蓬莱宮ハ名のミして けいりく に近きわか身の不死の薬やなかるらん あしまのかせの鳴海写 干塩につるゝ捨小船  さゝて沖にや出ぬらん 小々蟹の蜘手に懸る八橋や 澤辺に匂ふ杜若 在原の中将のはる /\とぬと詠せしも 今身の上に知れたり 猶行末は白真弓屋は紀の宿赤坂松に懸れる藤 枝のこすゑの花を宮路山 わたしと今橋打渡り 雲と煙の二村山は高師の名のみして 野 さとに道や続くらん (上)浪の満干の塩見坂 れうかい天につらなりて 雲に漕入沖津 船 呉楚東南別て 乾坤日夜うかへ利 帰らん事をしらすかに しはしおりゐる水鳥の  下安からぬ心哉 夕塩上る橋本の 浜松かえの年々に幾春秋を送るへき 山はうし路の前 經 夜は明方の遠山に早横雲の引間より天龍川も見えたり おとろへはつる姿の池田の宿  鷺坂旅寝にたにもなれぬれは 夢も見付の府とかや 岸辺に波をかけ川 さ夜の中山中/ \に 命の内は白雲の 又越へしと思ひきや うきねをのみ聞川や 旅のつかれの駒場か 原 替る淵瀬の大井川 河辺の松にこととはん (上)花むらさきの藤枝の 幾春懸て匂 ふ覧 馴にし旅の友たにも 心岡辺の宿とかや 蔦の細道過て きなれ衣をうつの山 う つゝや夢に成ぬらん 湊に近く引紐の 手越の川のあさ夕に 思ひを駿河の府を過 清見 か關の中/\に 留らぬたひやうかる覧 薩葉山より見渡せは 遠く出たる三保か崎 海 岸そことも白波の 松原こしに詠れは 梢に残る海士小船 余に袖やぬらすらん ゆい神 原も過しかは 田子の浦半も近かくなる 西天東土扶桑国 双山なき冨士の根や 萬天の 雲を重ぬらん 浮嶋か原を過しかは 左は湖水浪よせて りよハせんすひの浮鳥の 上毛 の霜を打払 石は蒼海遥にて 漁村の孤帆の幽也 とんけうちけの衆生の火宅の門を出か ねし 羊車鹿車大牛の車返しは是かとよ (上)伊豆の府にも着しかは 南無や三嶋の明 神 本地大通智勝仏過去塵轉の如くにて 黄泉中有の旅の空 長闇明の巷迄 我等を照し 給へと 深くそ祈精申ける 雪の降枝の枯てたに 二度花や咲ぬ覧 右此一巻竹田宗印(江)意得昌次書之事 努々不可有他見候 愚思者可遍冥加者也云々 凡原歌舞之起干倭朝監觴地祇五代始天津児屋根命神集々八百萬神等開常世闇岩戸神楽者乎   然汲其神流成歌舞一家者久未有焉 近百一代御門後小松院御宇鹿苑相国代観世々阿弥記置 竺支倭之三国有奇事或和夫漢家字寄敷島道製作以為能 且分五音四声物理之上付曲節収之 心地則心動内為舞 言形外為歌而契当最妙矣 蓋蒙諸神世者式三番等其役々可併按焉 相 国徴自為吾風流延年遊楽以来盛翫世作歌吹海因更高着曲調伝之竹田禅竹并成一家 今春者 是也 今春乃稟春日春日乃兒屋根命而其流遠伝者良有以也 今春云観世云世阿弥者乃又両 家権輿乎 禅竹令子秦宗印其芸不減父 取美誉於夏夷時城州祝森住人橘昌次者為利宮八幡 神人乃我先父也 賦性志之故随遂逐伝密旨然而世己紊乱尋家国之安遊遍以弘之 故一本散 在于諸方定成為其不肖皃深歎家業墜緒適就緒方択隠狩逸輯以為記猶唱一曲之伝至我 言字 之錯謬也 音声之微少也 雖愧赧不少囀花鶯住水蛙吟樹上蝉各皆発我歌謡者也 于後于間 有傑出而觝排古風雑進新奇之族 於其得意於其所好者須順時之宜豈其拒之乎哉  椿原彌介入道  干時天文拾弐年〈癸卯〉正月十九日 一賢(花押) 木崎治部亟殿 参