193-47〔謡花伝書〕イ11-00317-001〜002 謡花伝書 并鼓大事【表紙】 一 小謡うたひやうの事 一 四季十二調子の事 一 うたひやうに嗜の事 一 謡音曲の事 一 当座ついの花の事 一 口を切心を不切事【1オ】 一 文字をしやうに諷事 一 しやうを文字に謡事 一 拍子に合する謡様の事 一 文字しやう違の事 一 開合の事 一 しやう/\習の事【1ウ】 一 陰陽呂律の事 一 うたひ縦横の事 一 除破急の事 一 文字うつりの事 一 男女博士の事 一 うたひ位の事【2オ】 一 脇と太夫心得の事 一 君位うたひ分の事 一 もんだい論義の事 一 さしくりの事 一 曲舞上羽之事 一 五音の事【2ウ】 一 五音うたひ分之事 一 らん曲之事 一 息次の事 一 二字つめの事 一 聲遣様の事 一 八拍子の事【3オ】 一 あふき拍子之事 一 打切五拍子の事 一 上り僧下り僧の事 一 置つゝミの事 一 一丁鼓の事 一 曲舞打切の事【3ウ】 恐(オソ)れおほしといへとも 初心のため御笑(ワラヒ)草の種(タネ)を書付進之候 先指 寄(サシヨリ)て誰(タレ)も御謡(ウタヒ)候へとも 小謡大事の物と申伝候 一節(フシ)も 御うたひ候方ハ さかもりなと候とて 謡あるへきと思召候はゝ 前方より謡候事を心に 懸(カケ)所望(ショモウ)の時は 其侭(マヽ)御謡候事第一専一也 其上春ならははるの事 を作りたる小うたひ何にても【4オ】祝言にうたふへし 祝言と云は心をはり真にたゝし くかろく吟(ギン)つよく物を略(リヤク)せさるが祝言に候 其時にいたり其気の謡心に 出さる時は関寺小町にさゝ波や濱(ハマノ)の真砂(マサゴ)はつくるともと云所を祝言にう たふへし 是四季(キ)ともにくるしからす 小謡一かとうたひ候へは余は何たるうたひも くるしからす候 音阿弥の歌に【4ウ】 うたハんに先祝言をもつはらに 扨其後はれん ほあひしやう  扨小うたひ序(ジョ)より謡候事能候 序と申候ハをとつれの前にも御入候 序より謡候へ ハかなりす小うたひ返して謡(ウタフ)物にて候 又序なきとも初に謡ふ小謡ハ返て謡フ者 也 事たらハずハ不祝言(ブシュウゲン)にて候 数多く謡候時は返さずにうたひ候て【5 オ】よく候 夫も一人に謡出させ跡を皆々つけ候ハんと申候はヽ返して御付させ可然候  但むことりよめとりの時ハ返し不申候 又門送(カドオクリ)の時は返し申候 それも船に 乗りて余所へ行候時は返さぬ物にて候 萬此心持にて候 観世宗雪新宅の能に杜若御入候 時上ハ信濃なる浅間のたけに立雲のとあけられ候【5ウ】是にて心得可有物也 歌に 初 たるところへ行てうたひなは 主人の名字(ミヤウジ)名乗(ナノリ)問(トフ)へし 指合謡(ウ タフ)ましき心得なり 座敷の作りやうにより陰陽(インヤウ)の心得専一に候 西北は陰な る間此方へ向たる座敷ならは謡かろく吟もはりねらぬ様に謡へし 陰にハ陽をあてがひ陽 にハ陰をあてかふへ【6オ】し 是陰陽和合や惣別(ソウベツ)謡の位により方角により申候 間軽(カロキ)物にても重物にてもかきり不申候 鼓(ツヾミ)も同事に由申候 歌に それ/ \の謡によりてかハるへし 老若男女(ラウニヤクナンニヨ)僧俗(ソウゾク)にあり  一 四季(キ)の調子(テウシ) 春ハ双調(サウデウ) 夏ハ黄鐘(ワウシキ) 秋ハ平調(ヒヤウ デウ) 冬ハ盤渉(ハンシキ) 土用ハ一越(イチコツ)【6ウ】 一 月の調子 正月 平調(ヒヤウテウ) 二月 勝絶(せウせツ) 三月 下無調(シモムテ ウ) 四月 双調(サウデウ) 五月 鳧鐘(フせウ) 六月 黄(ワウ)鐘調(テウ) 七月 鸞鏡 調(ランケイデウ) 十一月 一越調(コツテウ) 十二月 断金調(ダンキンテウ) 十二時も 同事 寅の時平調にあて候間それより次第/\也 一 調子の五性(シヤウ) 平調ハ金 盤渉ハ木 それ調子ハかぬる心得其外色々の事 候へとも【7オ】少の心然分にてハ難成候 其上いかに月の調子にて候とも神仙上無なと にてハ声(コエ)出不申候間不被叶事に候 広(ヒロ)き座敷にてハ少調子(テウシ)たかく狭(せ バ)き座敷にてハ少ひきく御謡候心得尤に候 歌に うたハんに調子をひきく吟しつゝ みしかき事を先うたふへ■〈虫損〉 指よりてうたふてうしハ双調か【7ウ】のちは黄鐘(ワ ウシキ)盤渉(ハンシキ)そかし 常に御嗜(タシナミ)あるへき事 一 目をふさき謡(ウタフ)事 一 人をしかる様に謡事 一 手ずさミする事 一 文字に聞へぬ様に謡事 一 拍子をたかく打事 一 声をふとくほそく謡事 一 頭(ヅ)をふり浮沈(ウキシヅ)ミ面白かりし謡事 一 貴人(キニン)御盃(サカヅキ)の中に長き小うたひ謡事 一 謡一番の内後の小謡前に謡 前の小謡後【8オ】にうたふ事大かた此らの分悪く候 歌 に けいこをは晴(ハレ)にするそと思ひなし 晴をは常のこゝろ成へし 晴の役(ヤク)前に 稽古(ケイコ)をよくなして 其夜の心ゆふ/\ともて 凡謡ハどうより声を出しほかミに 心ををき下心をはり上かハをなにとなく謡候【8ウ】がよく候 又はりつけとて腹をはり  をとかいをのと口付 下歯(バ)を上歯より出し 舌を下へつけて諷へしとあり か様にう たひ候へはかならす首より上に心ありて口のはたかへより声出候て鼻(ハナ)へ入 謡のわ け聞にくき物にて候 歌に 音曲はたゝ大竹のことくにて すくに清くて節(フシ)すくな かれ【9オ】 逢坂(アフサカ)の関の清水に影見えて 今や引らん望(モチ)月の駒(コマ)  逢坂の関の岩(イワ)かとふミならし 山立出るきりハらの駒 初一首ハ何のふしもなかれ と数返吟(フヘンギンジ)候へとも 口にもあたらず耳にも立候ハて其感(カン)ふかし後の一 首ハ打聞取面白(ヲモシロキ)様に候へとも 数返吟候へは口にこわくあた【9ウ】り清水の 歌には無下(ムゲ)にをとり候 さらは古人も申をかれ候 音曲清水の歌のことく和かにた けたかく耳(ミヽ)に立候はぬ様にあらまほしき物にて候 花紅葉(モミチ)程見事なる物ハ なく候へとも 木つきかしき杖のふり悪く候へは見られ不申候程に 謡ハ御慰(ナグサミ) にて候へはくせなく聞能き様に御嗜(タシナミ)むに候 昔より声をわす【10オ】れて曲 を知れと申候間 御稽古(ケイコ)専(セン)一候 謡さへ謡へは声ハ独(ヒトリ)出て申候て 聞よく候 努々(ユメ/\)声を能/\出し候ハんと声(コエ)に心を御付あるまじく候 し たるき謡の自由(ジユウ)になきも皆声(ミナコエ)に心付故にて候 又節はかりを心懸師匠 (シシヤウ)のごとく少もちがへじと皆御謡候かならす謡すくみかたく成る物にて候 たと へは名ある墨(ボク)【10ウ】跡(セキ)なとを上々に紙ごしらへをして少も違(チガヒ)候ハ ぬやうにすきうつしに仕候とも同し心にて候 節(フシ)ハかゝりにて四座ともに違といへ とも 何の座にても謡様知りたる人を上手と申や 昔(ムカシ)は人の根気(コンキ)つよく 候により同事を幾色(イクイロ)も名をつけならひにて候とむつかしく申置候かと見へ申候  今ハ人の心みじかくなり【11オ】くらき事をは退(ノチ)候て大形入候ハて不叶事とも書 あかし申候  一 当座の花ついの花と云事あり歌に 思ふにや時の花の香(カ)かさしつゝ つゐの花を は打わするらん 見わたせは花も紅葉もなかりけり 浦の苫(トマ) やの秋の夕くれ 夫 当座の花ハ扨も見事やとおもひ候【11ウ】へとも 花ハ七日を経て散るものなれハ や かて興(ケウ)なくなるものにて候 月ハ常住不滅(シヤウチウフメツ)にしてつくる事なく 面白物にて候へとも 夕暮の月ハ終(ツイ)の花にて候 習を能々稽古(ケイコ)候て其心を ふまへていか程にも新敷御謡候ハヽ終(ツヰ)の花にて興(ケウ)ありておもしろく御入ある へし 夫論語に古(フル)きを尋新しきを知るといへる心なる【12オ】へし 皆人ことに 謡を忘すにおほへうつくしくして拍子にあひ声さへ出候へハ此上ハあらましきと思ひて自 慢(ジマン)し人も赦(ユル)さぬ上手になり候 右のごとく謡候へは大形ハ能様に候へとも 中/\上手とハ申されす候 是当座の花にて悪く候 よき拍子にあひ候ハ皆したるき位(ク ラヒ)にて候 始(ハジメ)申候 是拍子程と申候て殊の【12ウ】外あしき事にて候 拍子 の間より謡出し程(ホド)より拍子(ヒヤウシ)にうつりあひてあはぬ心持是程拍子とてかろき よき音曲に仕候 此心謡候ハんと存候へは昔より古人の申置候 習(ナラヒ)ともを能々修 行(シユギヤウ)不仕候へは難成事にて候 是ついの花にて聞さめなく候 歌に 声出すに 音なりとも音曲を【13オ】 習てうたふ人そ床しき 出ぬよりなをてる声の音曲の よ こしまなるそせうし成けり 又いかにさらりとのびやかに謡候がよきとて人にも謡手とよ ばれ功者(コウシヤ)なる者の幾度(イクタビ)もうたひ候に何事もなく同事はかりにてハ其感 (カン)なき物にて候 一番の内には一所二所新しき【13ウ】節(フシ)をもうたひぬく拍子 かくる拍子なとをも御謡あるへく候 一度(カド)聞(キ)ことに覚え候ものにて古人の謡置候  めつらしき節なといかほとも御おほえ有て時々御謡尤に候 初心人なとハ一節も御謡候事 御無用に候  一 たけくらへ あきのせミのきんの声 一 三のの事 六宮のふんたいのかんしよくの【14オ】 一 三字(ジ)あかり うきねそかはる此うミは 一 三字さかり はなみくるまくるゝより 一 三ひき はるに(悪吉)あふ事 一 二字をとし たくひなききひにかく 一 一字をとし むかへハかはるこゝろかな 一 三重をとし 老の身のよハり 一 かたをとし 初てのそむ老の身の 一 節なまり 清水寺の鐘の声【14ウ】 一 まへをとし 夜あらしにねも(悪吉)せぬ 一 文字なまり こかねの(悪吉)岸にいたるへし 一 かたくり 大液のふようのくれない 一 むかひくり あひしうのこゝろ 一 くる事 まさきのかつら 一 二字くり たゝゆめの世と 一 ひろふ ていかかつらの 一 いるゝ つきゆきの【15オ】 一 よする まくらをならへし 一 はこぶ 草はう/\としてたゝ 一 口を切心を不切所 又ある時ハこゑをきゝ 一 心を切口を不切所 あハれに消しうき身也 あハれいにしへ 一 文字を正に諷事 求へたくそおほゆる 一 地のほと みなミをはるかに眺れは 一 正を文字(モジ)に謡事 ほうそう雨したゝりてなれし 一 縮(チヾメ)て拍子に合する事 たけのミやこちに【15ウ】 一 右同く合するふし しのにものおもひ 一 のへて拍子に合事 来りてなくこゑをきけは 右三所の正ハ鼓をはやす謡なり 加様の所は何も同所や 宮増弥左衛門歌に 年ふれは替 (カハ)ることのミおほき中に 鼓(ツヾミ)をはやすうたひてもかな 一 文字(モシ)をしやうちかいと云事 見へぬ(悪なまり) 見へぬ(吉)【16オ】 たえす(悪なまり) たえす(吉) 一 口中開合(カイガフ)の事  アイウエヲ 鼻喉(ハナノド)ニツウス カキクケコ 歯(ハ)ニツウス サシスセソ 腮 (アギト)ニツウス タチツテト 腮ニツウス ナニヌネノ 鼻ト腮ニツウス ハヒフヘ ホ 唇(クチヒル)アワセス【16ウ】 マミムメモ 唇アフ ヤイユエヨ 鼻ヨリ出ル ラリルレロ 舌(シタ)ヲフル ワイウエオ 鼻喉ニ通ス 口ヲスホム 舌ヲ出シ口ヲ中 ニ開(ヒラ)ク 歯ヲカミ口ヲホソム 歯ヲカミ唇ヲヒラク 【17オ】歯モ唇モ開ク 一 しやうくならひの事 平声 上声 去声 入声 頭月次ノ問 人ニ物ヲ 藤(トウ) 弓ニマリ ムル  一 宮 商 角 徴 羽  スク   ソル   スクム  ユル  ノル 木ノ下陰 国モ治ル 松ニ言問 音信  所ハ高砂ノ【17ウ】 一 リヨリツ リヨハ フトシ 呂ハ陰ナリ リツハ ホソシ 律ハ 陽ナリ 一 炎天 寒天 アツシ サムシ 一 横 シユ ヨコ タテ 加様の謡やうならひあまた御入候へとも除破急(ヂヨハキウ)一色よく御稽古(ケイコ) 候ハヽ演(ノベ)申候心同前に候 一 ぢよはつきう是ハなかくのへたるあとをかろくひろいて謡又ひろいたるあと【18オ】 をハのへて謡事や又地の程とて拍子の間をうたひて行事あり たけたる位(クラヒ)にて なく候へはなりかたく候 一 文字(モジ)うつり 是ハ何にても文字を引候へハあとに一字つゝ字をうむ物なり た とへばらの字を長く引候へはあの字出き たとへハさひしき道すがら秋のかなしミと云所  らの字を引あの字を云にをよばさるや 一 女はかせ 陰(イン)也 夜(ヨル)也 のか■くかうつくしく少よハく 一 男はかせ 陽(ヤウ)也 昼(ヒル)也 はるあらめに強(ツヨク) 謡一番の問に もまはかせおはかせ御入候たとへはしゆえんのやめ給ふ御心のうちそいたハしきと云所ハ めはかせ 重衡勅(チヨク)によりと云所ハおはかせなり 右何も【19オ】同前 鳴(ナ リ)物も同前なり 一 兎角(トカク)謡(ウタヒ)ハそれ/\の外題(ゲダイ)のことくに心得て謡候へは 上手にて御入候 其心持うたひ位(クラヒ)ハ御稽古(ケイコ)にをよバすと観世宗雪も 被申候 たとへは定家ならハ式子内親王の位を分別してけたかくうつくしく 江口ならは 遊女の位を分別して位もなくそさうに 又葵上な【19ウ】とは上らうにて候へともうハ なりうちにてしんいのほむらをもやすやうに作り置候 うつくしきうちにつよくかどらし くして御謡あるへし 又修羅(シユラ)なとは一番の内に初の出ハ或ハ老人になり或ハ草 かりになりて出申候 其姿(スガタ)の位々にうたふへし 後の出ハよりかならすむかし の有様をあらはし【20オ】て武者(ムシヤ)の出立にていで申間 其位につよくあらめ に御謡あるへし それ/\に謡つくり置候 其句面(クメン)のことくにかるめりのうた ふへし 百番千番も同前たるへし 一 わきとしてとの心持 わきの方ハ位もなくさら/\と軽(カロ)く又かろきとてはや きハあしかるへし しての方ハうつくしく【20ウ】のびやかに位をあらして又したるき ハあしく 歌に 音曲ハからおき心そよかるへし をそきもあしゝしたるきもうし 一 助音(ジヨイン)するは我■わすれて人にしたかふもあり 歌に よりあひてうたハ ん時は其中に 初心のものは耳(ミヽ)をあくへし【21オ】 皆人つよくうたハんその ときハ 声をやすめて又うたふへし 一 める はる はる める 是ハ声(コエ)をめりてひきく謡候時は心をはりて たか く謡候時は心をめりてよく候 一 君臣(クンシン)小謡ハうたひ君(キミ)■〈虫損〉て鼓臣(ツヾミシン)なるによりてう かゝひ打也 一 曲舞ハ鼓君にて謡臣なるによりて【21ウ】うかゝひうたふなり 何の謡にても其位 により三所かろき所あり 一 ろんき又もんだいなとハいさかひのごとく初ハしづかに云後ほと気上てまけじとつめ てからかひ申候 其ことくろんきもつめてうたひ候物にて其跡(アト)かろく候 ぢよはつ きうの心持肝要(カンヨウ)なり 歌に【22オ】 論議(ンギ)こそやすく聞て大事生れ 問 (トフ)にこたふるほどをしらすや 一 くりの前 それくりハ鼓かゝりて打候により前の謡をもく候へはくりくされ申さす候 によりかろくよきなり 一 さしのらぬハさし声のるハさしこと 是ハ君臣(クンシン)の役(ヤク)ハつれたる所に て鼓と謡とおもひあひ申さす候により【22ウ】かろく候と申伝也 さりなからさらにあ ハするとあハぬとの打やうあり 打人稀に候 但一丁鼓の時は又打やうかハり候なり 又 程にさしハ除(ヂヨ)曲舞上はまてハ破上より跡ハ急にうたふへし 一 さしのうたひ出し 鼓打上候て小鼓まてをとしてから其まゝうたひ申候 立曲舞ハく りのゆり少あまるほと【23オ】にはやく打上てうたハせ候 居曲舞ハ鼓を謡より一段も をそく打上てうたハせ候 その心持肝要(カンヨウ)に候 一 曲舞の出ル鼓かんにてうたハせ候へは声をかけ申候 をつにてうたハせ候へは声をか け申候 をつにてうたハせ候へハ声かけ申さす候 をつにてハてになり候間かけ申さす候 よし断(コトハリ)なく声にかまハす程【23ウ】より謡出し候事専一なり 一 上羽(ハ)のしやう しかれは采女のたハふれの 地の程のうたひやう 一 太夫後の出はのうたひやう めはかせ小鼓(ツヽミ)のじゆんよりうたひ出し申也 お はかせハ大鼓のじゆんよりうたひ出し申すなり 笛(フエ)を聞つゝ謡ひうたふへし 又大 鼓にての時ハ心持かハるへし【24オ】 一 謡のこしおれ 是は後の出はの一声打上てかならすわきうたひ申候 つゝミの少間よ りかけてうたふ物にて候 程置て謡候を腰(コシ)おれと申候あまりにうちからハあしく 候 一 くりのゆり数の事 わき能ハ八ツ 花初て開(ヒラ)く九ツとも十とも 半ゆりは四 ツにて候 八ツ可然候 但かづら【24ウ】能ハ七ツ 露の世かたりよしそなき 但太夫 のゆりハ五ツ 別当寺の仏力なり 半ゆりハ三ツ そいんの竹を染(ソム)るとかや 一 舞のハて鼓打上すにわかを謡候 謡を鼓わすれ候て打上候事あり たとへは安宅にな るハたきの水とうたひ次に日ハてるともたえすとうたりとうたひ出す物にて候 夕顔(ユ ウガホ)の舞など鼓わ【25オ】すれ候てをとさすにかしらにて打上る事それも御僧の今 の弔をうけて数/\嬉(ウレ)しやと後のかへしよりうたふ物なり 加様の所何も同前な り 一 五音(イン) 是を能(ヨク)■(ウカヾヒ)しらず候へは謡にてハなきと申て殊外 (コトノホカ)秘(ヒ)する事にて候 上巻終【25ウ】 一 祝言(シウゲン)年の初千秋(シウ)万歳(ゼイ)といわふ心得 歌に 春日野にわ かなつミつゝ万代と いわふ心や紙そしるらん 金札の小謡又いつれの脇能(ワキノフ) の曲舞にても御稽古(ケイコ)あるへく候 一 幽玄(ゆうけん) 遊玄とも書心得あるへし 歌に有明のつれなく見へし別より【2 6オ】 あかつきはかりうき物ハなし 三井寺の小謡曲舞にても 一 恋慕(レンボ) 人に打もたれなつかしき心持 歌に 立出てつまきをひろふ片岡(カ タヲカ)の ふかき山路となりにけるかな 花形見の小謡班女(ハンジヨ)の曲舞にても 一 哀傷(アイシヤウ) 一切よハし 歌に【26ウ】 浅芽生(アサチフ)の袖(ソテ) にかれにし秋の霜 わすれぬ夢(ユメ)を吹(フク)あらし哉 角田川の小謡 鍾馗(シ ヨウキ)の曲舞にても 一 闌曲(ランギヨク) 四音ほしきまゝに成就(ジヤウジユ)を云や 歌に いつしか と神さひにけりかく山の むすき本にそ苔(コケ)のむすまて 右の小謡隠岐院(ヲキノ ヰン)の曲舞なとにて【27オ】御稽古あるへし 謡(ウタヒ)一番の内幾(イク)所も 五音かハり申候 一番とは定かたし 先ひつゝけてかしらより謡出すハ不祝言と可心得  右のことく小謡一つ宛は皆御稽古にて御謡候へとも一番の内其所々五音に諷分る人稀(マ レ)に候 五色に諷分候ハ節にも文句(モンク)にもよらず心のかハりめや色かハる人の 耳(ミ ヽ)【27ウ】へ五色にきこえ申候 祝言(シウゲン)幽玄(ユウケン)恋慕(レンボ)此 三曲ハ何も下心に祝言の心持はつれてハあしきなり しうけんの心持の上に声に色をつく るとつけさるとのちかひにて候 哀傷(アヒシヤウ)ハ祝言の心はなるゝなり 蘭曲ハ右 に申候ことく四音成就(ジヤウジウ)ハかへて打まぜて謡候により乱曲とも書申候 引歌 秘事(ヒジ)なと数【28オ】多(アマタ)かき置申候へともいか程見ても合点(ガツテ ン)まいらさるものに候 小謡一つを五色に声の色をかへてうたひわけ候人に御稽古ある へく候 一度にても合点(ガツテン)まいるへく候 当代左様にうたひわけて聞れ候 人 稀に御座あるへき也 皆不案内(ブアンナイ)と見えて祝言をも不祝言(ブシウゲン)に うたひなされ候衆はかりに候【28ウ】 一 息(イキ)つぎ さし 曲舞 きり みなかハり息次大事の物に候てにはにて次へし  人にしらせぬやうにうつくしくつき候を能と申候 一 さしハひたいにて声をきる 曲舞は出る息(イキ)にて謡をさめ入るいきにて謡をさ め肺臓(ハイノザウ)にてうたひ出し候とも申候 心持同前に二字つめて【29オ】句き りいひはなしを二字ツゝつめ候 いひはなしにてつめられぬ所御入候 それはいひ出しを 二字つめ候 此心持専一に候 一 きりハさしぬきとて謡をさめをかるくすてうたひ出しを前はかけてうたひ出し候 一 軽(カロ)き字(ジ)ハちいさかるへし 重(ヲモ)き字は【29ウ】大きなるへし 一 重きハ強(ツヨ)く当り軽きハ弱(ヨハ)く当りよハくをすへし ひくまハ能程らい にあるへし 長く引てもあしかるへし 又ミぢかく引てもあしかるへし 一 とたかの三字ハ皆きめてよし 一 べうの二字ハうつくしくよハかるへし 一 謡をつなくと云事あり 口伝なら【30オ】てハ書明(カキアカシ)かたきなり 一 鼓より謡そこなハせんとて手を打かゆる事 其心持本の地に心をつけてすぢを忘(ワ ス)るへからず 第一いつくにてかめつらしく打候ハんと油断(ユダン)なく心を付へし  息次(イキツギ)の拍子(ヒヤウシ)つよくてあひての拍子をうかゞハぬがちがハぬ極意 (ゴクイ)なり 歌に【30ウ】 いさうなる手を打かへハ取あハて 直(スク)に行へ き地を忘るなよ 一 謡より鼓を打そこなハする心得あり うたぬ五拍子によく心をかけて身の拍子かへる 拍子を沢山(タクサン)に謡候へハかならす鼓ちかい又謡返しにてこんがう返しとてかな らす打そこなハするならひあり 皆々心得専也【31オ】 一 声(コエ)つかふ事 宵(ヨヒ)には物数多くたかく謡あかつきハひきくすくなくう たふへし 但をハんと思ふ時少したかく謡へし 扨あつき湯を呑(ノム)へし 声のむき むきたるをうたひからさぬやうにすかしてうたふへし 声のつまりたる時ハつをつを呑候  何よりも薬(クスリ)にて候 痰(タン)ひきしろいてうたハれぬ時あり 生姜(シヤウ ガ)を【31ウ】つきミそ少付あふりてくふへし 歌に 暁(アカツキ)にかきるへから すつかふ声 常に謡(ウタヒ)をうたふへきなり  一 夫拍子のおこりハむかしある人脈(ミヤク)のをどるに心付是にて鼓をつくり出した ると申伝本拍子是なり 一 本の拍子 始て作りたる謡に人の鼓を付候時入也 何にても合申【32オ】候 人の 合点(カツテン)ゆかぬやうに打へし  一 五拍子(ヒヤウシ) 身の拍子 手拍子 四拍子 口拍子 足拍子 是五拍子也 一 七拍子 はやし かろし うハかふき 中 をそし したるし しツる 是七拍子也 一 ヨ拍子 や拍子 此二つ能の時脇(ワキ)と地と心得あり 色々の拍子とも作(ツク)り置候へとも是皆【32ウ】拍子の積(ツモ)りをしてつねに うたぬ拍子にて候 一 打五拍子 夜拍子の時すへて謡切候所に打 〈図あり〉 朝長(トモナガ)に答(コ タフ)るものもさらになしと云所にて此扇拍子(アウギヒヤウシ)を打事秘事(ヒジ)に 仕候 但一つのかしら是大に秘す かやうの所 蜑(アマ)其外にもあるへし 一 打四拍子大鼓と小鼓との間四つ打也【33オ】ぬるき拍子なり 又八つ拍子是ハ脇き りに専用申候 但はやきとをそきとの打様何の所にても打申候 〈図あり〉 三ツハ本地  四ツ五ツハこす 六ツめハ当る 残りハ本地 数ハ同し物にて候 人によりて打様ちがひ 申候 皆ひとつ事に候 一 打一拍子 句切にあり鼓なく謡候時は【33ウ】こまるなり よき拍子にて候  やうにむかへる花来ハ又かやうの時のいきつきに打申候 又一拍子つめとて小謡なとのう たひすへ何をも一拍子にて謡事あり 又すミの拍子と云て一つ打事あり さゝ波や見なれ ざにこかれ行程に 〈図あり〉 遠かりしと一つ打て謡物にて候 当て出申候ハあたり拍 【34オ】子とて殊外きらふなり 右すミの拍子は扇拍子(アフギヒヤウシ)の事に候 鼓 にハひやうちやうかへりに三の拍子と云事あり すてのかしらと云事あり 一 打切うたひ出し五拍子 龍女へんしやう こうくりの春のあした 清水寺のかねのこゑ【34ウ】 かつらきの大 君 われもそのかミハ 二の拍子の程 タン○本の拍子のほと タン本の拍子 ○かけの ほと 一かけの拍子 打きりハいつれも此五つより外に出る【35オ】事なく候 さりな から是ハるつう仕らす候へはやくにたち申さす候 一 加道現在(ゲンザイ)の鬼(ヲニ)を閉(トヂ)たる面なり 強さらりふととうたふへし 一 細道神鬼と云物なり 口を開(ヒラキ)たる面なり 細かにうきやかにうたうふへし 一 上り僧(ソウ)ハ定家次第に下略を打 二つめに本の頭(カシラ)を打 是をきゝて脇 【35ウ】出るなり 鼓の打様 置鼓(ヲキツヽミ)の笛(フエ)六のけをす 小鼓のかしら 二つ打あとのをつから大鼓を打出し置鼓と打むすひ次第を打なり 行衛や定なるらんと次 第を作り置候 義により次第不定に打留とも申伝候 一 下り僧(ソウ)ハ江口次第に上略(ラク)を打 二つめに下りを打 是を聞てわき出るな り【36オ】上り僧下り僧ハ此二番に究(キハマ)り申候 此打様不知候へは脇(ワキ)出る 事ならす候間如此に心得へし 一 わき能には山のかしらと云事あり 其かしら打申さす候まてハ脇出申さす何時出し候 ハんも鼓のまゝにて候 打様口伝 不習(ナラハズ)ハ書付かたく候 一 大口着(キ)たる僧ハ住僧(ヂウソウ) 座主(サス) 法印(ホウイン)也【36ウ】  是ハしんにおも/\とうたふへし 置鼓あり 一 大口着(キ)ぬ僧ハこつほ僧とて常の僧なり 是ハそさうにさらりと置鼓もなし 若打 候へはそさうに打なり 一 かいこのなき鼓 常(ツネ)のことくそさうに打先打をくなり 扨脇(ワキ)幕(マク)に 懸りたるを見て本の置鼓を打脇たつはい【37オ】をして神の緒(ヲ)を取を見て笛(フエ) ひきをこしのゆりをす かしら七ツながし打上て後のをつよりかいこを云出す 名乗(ナ ノリ)を云て打切 本のかしらを打さて謡かしらを打次第を謡 三度の次第過て又打切道 行をうたひ申なり 今春(コンハル)ハ地の次第より一拍子にて道行を謡候と承候 是あし く候 名乗を【37ウ】はかいこなのりとて下声(コヱ)にて名乗(ナノリ)を云て神前にて 頭(カシラ)より打出し本のかしらを打謡出し申なり 御前にてハ刻(キザミ)より打出す  鼓打大小秘事(ヒジ)候とて相伝不仕候により秘事をうしなひ候て今時ハ知たる人稀(マレ) なり わき仕候へハ出入候間書あかし申候 一 たつはい 脇常の置鼓にて脇出て申【38オ】 扨わき謡の中にて例を仕つむりをさ ぐるを見て笛(フエ)をひしく 其ひしきに付大鼓刻を一つ付けて打切 本のかしらを打  扨謡かしらを打それより次第をうたひ申候 是常の礼脇(レイワキ)と申候なり 一 本の頭 ハヲハ ヤヲハ ●(ヤ) ハ ヤヲハ ●●(ヤエイ) ヤヲハ ●(ヤ)【38ウ】 上略(リヤク) ●(ヤエイ) ● ヤヲハ ●(ヤ) 中略 ●(ヤ) ハ ヤヲハ ●(ヤ) 下略 ●(ヤ) ハ ●(ヤ)ヲハ ●(ヤ) 一 大かへし 鳥追(トリヲヒ)に打鼓と云所 一 花形見におそろしやと云所 柏崎にたのもしやと云所【39オ】 タノモシヤ 〈図あり〉 右の打切 其流々(リウ/\)に秘事(ヒジ)申候へとも【39ウ】をしへ申さす候 今はかや うに打申さす候へとも若(モシ)存じて打候へは謡出しかね申候間書明し申候 一 一丁鼓にて一人うたひ候心得 先小謡を序よりうたひ申や 扨なが/\と所望(シヨマ ウ)の時ハさしと曲舞との間に心得有故に二丁のまを一丁にてふさき候間 常の謡よりかろ くうたひ候 さて除破急(ヂヨハキウ)【40オ】程(ホド)拍子地の程を能うたひ候 人上手 也 鼓をきゝて謡候により謡下手に聞へ心拍子にて鼓にかはハずつら/\と謡候へはいか やうの上手(シヤウズ)の鼓打も謡をうかゞひて打也 鼓下手(ヘタ)に聞へ申候 秘事はまつ げのことし 手の秘事(ヒジ)にて小鼓一丁の時笛(フエ)御入候事あり 其時ハ小つゞみ打上 申候 打上てあとに【40ウ】  ●○○●・・●(ヤチチタツホホヤ) か様に打申候 ●○●・・●(ヤチタツホホ) か様に打申候 ●○○●・・●(インノチチタツホホヤ) 扨和歌をひツつけて謡(ウタヒ)出し申候 大形(カタ)の分稽古(ケイコ)にて済(スミ)申候  謡には鼓のらぬやうに定(サダマ)りたつならひハ多く無■座候と承申候 一 正尊(ゾン)の起請(キシヤウ) 木曾(ソ)の願書(グハンジヨ) 安宅(アタカ)の【41 オ】勧進帳(クハンジンチヤウ)の打様 右三ツのよミ物と行様六ヶ敷也 一 松風のはの舞にもんの留の打やう有 一 項羽(カウウ)にりよばとうハ恐れて近付すと云所の打様に今春と観世とのかハりめあ り 一 蘭曲(ランギヨク)の打様 右かやうの所とも数多あり か様の所は謡手(ウタヒテ)も 鼓をしり申【41ウ】さす候へはなり申さす候 能々御執心(シフシン)ありて人に御た つね肝要(カンヨウ)也 一 大鼓ひつとりて小鼓の本地に行候事御入候 大鼓の本地には小鼓のひつとる事ハなき 事也 昔(ムカシ)より法度にて是に違(チガヒ)候へは地を破(ヤブ)ると申候 大鼓 小鼓ともに三ツ迄ハひつとり申候 其外はひつとらぬ事に候 小鼓本地には【42オ】あ まり引取にはたらぬ事あり 是ハふん物の打様あり 木曾の願書なとに有へし 又乱曲に もあり 是まぬくと云ならひあり 人知らぬ事なり 又朝夕ある事の中には源氏供養に たゝすへからくハ生死るらうの須磨(スマ)の浦を出てと云所あり 六韜(リクタウ)に 一犬(ケン)かけを吠(ホフ)れハ万犬(バンケン)声(コエ)をあやまる【42ウ】一 師(シ)もとくらけれは萬弟(バンテイ)道に迷(マヨフ)とあり 師匠(シシヤウ)一 人あしけれハ其弟子皆無し 能師匠に稽古(ケイコ)可為尤候 歌に 師匠にもとハすハ いかてをしゆへき 心をくたきねん頃にとへ するわさをとふを恥(ハヂ)とや思ふらん  問ハぬハつゐの恥とこそきけ【43オ】 上手こそ物きらひする事そかし やうかましき ハ下手のくらせなり 何とわるくとそしりハしすな 其人の弟子と云たるはかりにて な さけぬけいこに師(シ)の恥をいふ さて謡出し肝要(カンヨウ)に候 歌に うたひ出 す心は何と持やらん【43ウ】 鶯の鳴こゑのことくに 何心もなくふつと諷候によりつ き声を出して諷心重く成 其諷のはてまて其心にしたるく御入候 一調(テウ)二気(キ) 三声(セイ)と云事あり 調子を分別して気に当る息(イキ)を呑(ノミ)入て声を出す へし じよの二字とて謡出し候 初の二字を軽(カロ)くよせて謡候へはしたるき事ハ【4 4オ】なく候 うたひ秘事(ヒジ)には工夫(クフウ)と申伝候 歌に 何事も工夫にま さる事あらし 習(ナラヒ)の上のくふうなりけり いかほと稽古(ケイコ)仕候とも常 に工夫(クフウ)をして御謡なく候ハヽ心はかりハ行候とも口には行申間敷候 にたる事 のにぬ事たる間分別(フンヘツ)肝要(カンヨウ)也 程拍子(ホドヒヤウシ)と【44 ウ】云事それ程の心はへもいはれぬ所本来(ホンライ)の面目(メンモク)といへは誠(マ コト)に此道成就(シヤウジユ)の人は覚(サト)り開(ヒラ)き得道(トクダウ)すへ き者也 曲舞の出声 一 高砂 しかるに長能 一 呉服 おうじん 一 忠度 六弥太心に 一 錦木 おつとハ 一 経政 第一第二の 一 木賊 しかるに教主 一 藍染川 いへとも 一 誓願寺 せいか遥に【45オ】 一 源太夫 らうしん 右還して声一つかけて小鼓ひつとる 一 田村 普天の下 一 夕顔 ものゝあやめも 一 玉鬘 たよりとなれハ 一 松虫 一樹のかけ 一 鈴木 はゝは其時 一 唐船 いはんや 一 盛久 りくそう 一 蟻通 とにむかへは 一 竹雪 おもひの多き 一 昭君 そもかんわう 一 江口 こうくハの春 一 春栄 夫生死に【45ウ】 一 蝉丸 世ハまつせに 一 砧 そまか旅ねハ 一 東岸居士 生をうくるに 一 由良物語 ゆらの戸 一 丹後物狂 ねハいとけるき 右返しもはてつるに出す鼓も何もすくに 一 老松 けにや心なき 一 野々宮 つらきものにハ 一 楊貴妃 われもそのかみ 一 井筒 むかし此国に 一 実盛 又さねもり 一 歌占 しゆゆふに 一 仏原 けにや思ふこと 一 藤戸 実や人の親の【46オ】 一 千手 いまハあつさ弓 一 田村 さそな名にしおふ 一 俊寛 時をかんしてハ 右返して声二つかけて出す 小鼓すくに 一 朝顔 ゆふひはくやう 一 船橋 さらはしつミ 右返して声二つかけて出す 小鼓引取 一 班女 すいちやう 一 紅葉狩 さなきたに 一 元服曽我 れうしん 一 白楽天 そも/\鶯の 一 接待 其時よしつね 一 浮舟 人からも【46ウ】 一 当麻 所ハ山かけの 一 半蔀 其頃けんし 一 錦戸 しかるに 一 女郎花 よりかせ其時に 一 船弁慶 然にしうせん 一 鼓瀧 くハせんに酒 一 皇帝 しかるに 右返して声一つかけて出す 鼓何もすくに 一 白髭 その後人寿 右返し声一つかけて出す 小鼓引取 一 安宅 然によしつね 一 花月  そも/\此寺【47オ】 一 牛王 所ハきの国 一 采女 かつらきの 一 軒端 所ハ九重の 一 小督 とうていの 一 御裳濯 しかるに 一 兼平 かね平申様 一 箙 時しも 一 自然居士 くわうていの 一 夜討曽我 さるほとに 一 善知鳥 鹿ををふ 一 杜若 しかれとも 一 吉野静 抑景時 一 殺生石 ある時御門 一 三輪 されとも此 一 矢嶋 よしつね 一 源氏供養 抑きりつほ 一 松山鏡 もろこし 右返して声一つかけて出す 小鼓すくに 一 西行桜 見わたせは 一 羽衣 はるかすミ 一 小塩 かすか野の 一 源三位 去程に 一 山姥 遠近の 一 難波 たかきやに 一 百万 ならさかの 一 定家 あはれしれ 一 葛城 かつらきや 一 二人静 さる程に 一 朝長 さる程に 一 関寺 あるはなく 一 伯母捨 さる程に 一 三井寺 山寺の 一 巻絹 是によつて 一 龍田 とし毎に 一 佐保山 たかための 一 道明寺 きミかすむ 一 小袖曽我 時宗は 一 氷室 夏の日に 一 道盛 すてにいくさ 一 美人揃 第五にハ 一 善知鳥 しやはにてハ 一 花形見 みかとふかく 一 芦苅 難波津に 右返して声一つかけて声二つにて出す 小鼓引取 一 熊野 清水寺のかねのこゑ 右返して声一つかけて出す 小鼓すくに 一 柏崎 かなしみのなミた 右今あひより納一拍子 一 大原御幸 先帝一門西海 一 松風 あはれ 一 海士 かゝる貴人の 一 桜川 けにや年を 右声二つにて出す 一 藤栄 皇帝の 一 善界 しかりとは 右声一つにて 引取 一 春日龍神 われをしれ 一 頼政 さる程に 右声一つにて当て出す 一 芭蕉 水にちかき 右大小つゝミすくに 一 遊行柳 そのかミ洛陽 右声二つにて出す 一 弓八幡 かミくんしやう 一 落葉 恋のやつ 右本地にて出す 一 蟻通 をよそをもつて 右今あひより納当て出す 右条々覚違可有之候得共 人々不恥嘲哢 書付申候 一色私之作書付候事 努々無之候  古人之書物共以有之 摂州八木但馬 河井宗■ 植田又右衛門 其外之旁 致執心候而  被伝授候通 少無虚言 書明申候 更ニ御他言有間敷者也 于時慶安三(庚勺〈ママ〉)歳正月吉日   山本五兵衛開板之(印)