プロジェクト研究「歌と語りの言葉と”ふし”の研究-
日本伝統音楽研究の視点と方法」(2008年度経過報告)
研究代表者
藤田隆則
共同研究員:
上野正章、内田順子、遠藤徹、奥中康人、小塩さとみ、金城厚、久保田敏子、後藤静夫、薦田治子、近藤静乃、島添貴美子、Silvain Guignard、田井竜一、竹内有一、細川周平、山田智恵子
オブザーバー:
龍村あや子、柿沼敏江、今田健太郎、龍城千与枝、薗田郁、斉藤桂、小城篤子
開催趣旨
日本の伝統音楽の諸種目の多くが、歌詞をもった音楽(いわば声楽)である。近年、楽器の演奏において唱歌(しょうが)をとなえることの有用性が、しばしば強調される。また現代、旋律、旋律型等を意味する総称としての「ふし」という言葉も、実際には声楽に対してつかわれることが多い(「ピアノのふし」とは言いにくい)。これらのことによっても、日本の伝統音楽における声楽優位は明らかであろう。
そういった現実があるにもかかわらず、声楽の研究にはあまり焦点が当てられない。たとえば、本研究が焦点をあてようとする、歌と語りにおける言葉と「ふし」の関係というテーマは、不完全燃焼の状態で放置されたままであるように思われる。
この不完全燃焼の背後には、学問の制度上の問題がある。歌詞の研究者(主に国文学)は、歌詞の内容解釈を優先させるため、形式の研究は当然後回しになろう。一方、音楽の研究者(音楽学)も、音楽を自立したシステムとして解釈する営みを中心に置こうとすると、言葉のない音楽を中心にせざるをえない(「音楽」という語が伝統的に器楽をさしてきたことも背景にあろう)。
結局、言葉に「ふし」が生成するメカニズムの研究は、応用的領域(後回し!)となってしまったのだが、もちろん、その大切さが学問上で認識されていないわけではない。今から30年さかのぼる1970年代まで、言葉と歌(speech and song)の境界をめぐる問いは、一般音楽学でも主流の問いのひとつだった。また、日本においても数は少ないものの、同じ関心にもとづいた、言葉のアクセント・拍節研究が行われてきたのである。こうした先達のまなざしや試みにふれつつ、一般音楽学の問いにもういちど立ち戻ることには、日本伝統音楽研究の固有の対象が何かを見定め続けるためにも、大きな意味があるだろう。
課題と作業
上の趣旨をふまえ、研究会では、3つの課題に焦点をあて、作業をおこなう。
- 声、言葉、「ふし」(旋律)に焦点をあてる古い研究文献紹介-
主に、第二次大戦前までの業績に焦点をあてる。したがって、分野は、物理学(音響学)、心理学、哲学、文学史、文化史、作曲理論等にわたることになるだろう。研究会においては、本の紹介と研究史上での位置づけ、また、利用価値についても考える。
- 現代の文献および海外の文献等の紹介-
一般音楽学へむけて、Speech and Song の境界についての諸論考(地域をとわず)、唄の旋律生成、作曲方法等をめぐる近年の研究動向をよくしめす論文等、アクセント、音韻研究(国語学)、歌謡研究(国文学)等の紹介等、「ふし」生成の研究にかかわるものなら、何でもとりあげる。
- 「うた/かたり/ことば/せりふ」等をめぐる個人発表-
それぞれの参加者が自分の研究領域のデータ等にもとづいて、諸モードの境界と相互関係について考えたり、ふしの生成における言葉の作用について考えたり、等、自由発表をおこなう。
経過報告
- ◇2008年度
- 第1回研究会
- 日時:2008年5月10日(土)12-16時
- 場所:京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター(新棟階合同研究室)
- 内容:
近藤静乃:声明の旋律構造―古楽譜の解読・五線譜化をめぐって
- 第2回研究会
- 日時:2008年7月10日(土)12-16時
- 場所:京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター(新棟階合同研究室)
- 内容:
小塩さとみ:長唄の「ふし」を考える
Silvain Guignard:新作は伝統の発展になるか?
- 第3回研究会
- 日時:2008年12月20日(土)12-16時
- 場所:京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター(新棟7階合同研究室)
- 内容:
中山一郎(ゲスト):日本語を歌・唄・謡う
坂井康子(ゲスト):狂言の音声表現の音響的特徴について
- 第4回研究会
- 日時:2009年2月6日(金)/2月7日(土) 12-16時
- 場所:京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター(新棟7階合同研究室)
- 内容:
藤田隆則:幸若舞の伝承と復元
沖本幸子(ゲスト):白拍子から曲舞・幸若舞へ
- 第5回研究会
- 日時:2009年3月26日(木)/3月27日(金)12-16時
- 場所:京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター(新棟7階合同研究室)
- 内容:執筆打ち合わせ(全員)