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伝音アーカイブズ

謡伝書の具体的理解と体系的把握に向けて ―「永正元年観世道見在判伝書」の翻刻データ公開 ― 補遺 観世宗節筆「(音曲)十五之次第」翻刻

高橋 葉子 編



法政大学能楽研究所般若窟文庫蔵『五音 観世道見書物』

はじめに

謡伝書は能の音楽研究にとって貴重な情報源である。が、歴史的な音楽用語や言語表現の難解さに加えて、謡伝書の多くが先行諸伝書の記事を集めた改編書であるため、記事内容の理解と体系的把握は容易ではない。謡伝書の翻刻データ化と公開は、謡特有の用語や表現、記載項目などの検索をたやすくし、能楽研究はもとより芸道諸分野からのアプローチを招くことを目的としている。

伝音アーカイブズでは、「謡伝書の具体的理解と体系的把握へ向けた基礎作業」(2010年6月、研究代表:藤田隆則)として、早稲田大学演劇博物館所蔵謡伝書11種の翻刻公開を行っており、今回のデータ公開もこれに続くものである。本ページでは法政大学能楽研究所蔵及び東北大学附属図書館蔵「永正元年観世道見在判伝書」を翻刻紹介する。

さらに関連伝書として、観世文庫蔵「音曲十五之次第」と同「十五之次第」の紹介と翻刻データを追加掲載したのでご参照いただければ幸いである。(2024年8月29日追加)

「永正元年観世道見在判伝書」とは、第六代観世大夫観世元広道見(文明4(1472)前後―大永3(1523))に仮託された謡伝書である。奥書に永正元年(1504)の年記と観世道見の署名を備えることからこのように仮称されるが、著者はもとより、成立・書写年代・書写者等は未詳である。室町期の複数の伝書から摂取した記事のほか、類を見ない古説や稀曲、独特の呂律説を収める個性的な伝書として今後の解読が俟たれる好資料である。

「永正元年観世道見在判伝書」の資料と翻刻方針など

翻刻と対校に使用した資料は以下の三本である。

  • 法政大学能楽研究所般若窟文庫「五音 観世道見書物」  (略称
  • 東北大学附属図書館秋田家史料『音曲秘伝書』第一冊    (略称
  • 早稲田大学演劇博物館『謡曲拾穂鈔』中巻              (略称

 

上記のうち、般若窟文庫蔵『五音 観世道見書物』と東北大学蔵『音曲秘伝書』第一冊については全文を翻刻し、異同箇所を示した。演劇博物館蔵『謡曲拾穂鈔』中巻については、この二本との校異のみを示した。同書は貞享四年の版本で(下巻のみに奥書「時貞享四丁卯歳孟冬上浣/書肆中村五兵衛(印)」)、道見の署名と年記を欠くが、二本の明らかな同系本であり内容は殆ど同じである。翻刻困難な節付や図については、東北大学本と演劇博物館本の当該箇所の写真を巻末に一括して掲載した。般若窟文庫本は法政大学能楽研究所金春家旧伝文書デジタルアーカイブにおいて公開されているので、随時参照いただきたい。https://nohken-komparu.hosei.ac.jp/books/large/1098/1

 

翻刻にあたって筆者は、『五音 観世道見書物』については原本を、『音曲秘伝書』は東北大学秋田家史料データベースからの複写物(白黒)を閲覧した。『謡曲拾穂鈔』は、雄松堂書店刊のマイクロフィルム『演劇博物館蔵 能・狂言文献資料集成』を閲覧した。

以上の伝書の詳細については、2022年度の伝音センター研究紀要『日本伝統音楽研究』20号に掲載の「「永正元年観世道見在判伝書」の音曲論―呂の声を中心に」(拙稿)を参照いただければ幸いである。なお本研究は、科研費研究(基盤C20K00131)「謡伝書用語の体系的研究―演奏の理念と表現を中心に」の成果の一つである。

 

本研究に際して、伝音センター2022年度プロジェクト研究「能の音曲伝書の実践的な解釈―謡鏡を読む」(研究代表者:藤田隆則。2023年度よりプロジェクト研究「祝言の音・声・音楽―能楽とその周辺」)の共同研究諸氏から様々な御教示をいただきました。また翻刻にあたっては、長田あかね氏(神戸女子大学)のご協力をいただきました。ここに御礼申し上げます。

 

貴重な資料の翻刻と画像の公開を許可いただいた法政大学能楽研究所、東北大学附属図書館、早稲田大学演劇博物館に深謝申し上げます。

 


 

 

 

公開:2023年07月20日 最終更新:2024年08月29日

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