7 口唱歌・譜
楽器の奏法や音程・音色などを言葉におきかえた「口譜」、いわゆる口唱歌がある。たとえば 鉦の場合、凹面の真ん中打ちは「チャン」、縁の下部における跳ね打ちは「チ」、縁の上部打ちは「キ」、縁の下部の払い打ちは「チン」で表現する。さらに、この応用で、真ん中の連打は「 チャララララン 」などとなる。太鼓では、 「テン」や「ツク」などといった表現の口唱歌をもちいている。おおよそ、「テン」は大バチをあらわし、「ツク」は小バチの右左連打をあらわしている。
笛の場合、 口唱歌の表現は必ずしも各々の指遣いと一致しない。むしろ各々の指遣いをくみあわせた笛の一定の旋律が、口唱歌を決定づけているといえる。とはいえ、いくつかの傾向性をみいだすことはできる。口唱歌でもちいているものに、ア行の「ウ」、タ行の「タ、ト」、ハ行の「ヒ、ヒャ、ヒャイ、ヒョ、ピー、ピャ、フ」、ヤ行の「ヤ」、ラ行の「ラ、リ、ル、ロ」がある (山本博務・松井俊樹・阪野完次氏作成の資料による) 。
また、鉦に関しては、以前よりその打ち方を記号化した譜本があり、囃子の練習・習得に使用している。そこでは、丸印(●)や三角印(▲)によって、鉦のうつ位置や打ち方を表記している。たとえば、●で 鉦の凹面の真ん中打ち(「チャン」)をあらわし、 ▲とその位置で、 縁の下部における跳ね打ち(「チ」)、縁の上部打ち(「キ」)、縁の下部の払い打ち(「チン」)をしめしている。譜にはまた、掛け声や囃子言葉、タイミングや間をとる時の参考になる、笛や太鼓の口唱歌の一部をしるしている。さらに、太鼓については、口唱歌をしるす他、丸印(○)でもしるしている。
譜は元々は個人持ち的な性格をもつものであり、笛の譜を個人で所有することもあった(カナ書き)。一方、戦前に町内でつくった譜があり、昭和 40 年代頃までは存在していたというが、現在は散失してしまったという(鉦の他、太鼓の譜もあったという) 。 現在公式なものとされている『鶏鉾 祗 ( ママ ) 園囃子 鉦之譜』 (注 5 )は 、市川友一氏が上記の譜を昭和 48年にうつしたのを複製したものである。