0 はじめに
京都の祇園祭りは、日本各地に多数伝承されている山・鉾・屋台の祭り〔植木 2001〕の中でも、歴史性・規模・他にあたえた影響等いずれをとっても、頂点にたつものといって良いであろう。しかしながら、祭礼の歴史や山鉾の構造、懸装品等の研究はすすんでいるのに対して、そこではやされる囃子に関しては、いくつかの先行研究(注1)をのぞいてほとんど研究が進展していない状況である。
こうした状況の中、筆者らは、1997年度から1999年度にかけて京都府の文化財保護課が実施した京都府民俗芸能緊急調査に参加し、祇園囃子の調査をおこなうことができた。残念ながら、その際は時間的な制約から、詳細な調査・報告は四条通りの一番東側からの3ヶ所(長刀鉾・函谷鉾・月鉾)のみとなった〔田井・増田 2000〕。そこで、筆者らは京都府の調査の終了後も、個人的な形で調査を継続することにした。毎年1ヶ所ずつ調査をすすめ、将来的には、祇園祭りにおいて囃子をはやしているすべての山・鉾・傘鉾の調査を実施する予定である。
本稿はその最初のものであり、2000年度に実施した鶏鉾の調査報告である。従来祇園囃子についてかたられる時、先行研究がほとんどないことから、それぞれの個人的思いによることが多かったようにおもわれる。祇園囃子をめぐる議論は、統一したフォーマットによる、音楽民族誌的記述をつみかさねたものの上で初めて成立するものとかんがえる。筆者らによる一連の調査報告は、そうした目論見によってすすめているものである。