3 桂地蔵前六斎念仏の特質
太鼓の活躍
第3に、前述のように、桂地蔵前六斎念仏においては芸物の多さが一つの特質となっているが、同時に京都の他所と同様、太鼓の活躍にも重きがおかれている。上述の〈青物づくし〉をはじめとした純粋な意味での太鼓物の演目の他、桂地蔵前六斎念仏の中では長大な曲である〈猿廻し太鼓〉〈獅子太鼓〉などでも、太鼓の高度な技法を駆使する曲打ちがあり、見せ場となっている。特に堅太鼓には、「表打ち」と「側(かわ)打ち」がある。表打ちはリーダー格で1〜2名、側打ちはその他の大勢約10名で構成される。表打ちは装飾的なパタンをうち、側打ちは主に太鼓の縁(鋲打ちの部分)をうち、同じパタンをくりかえす。
また、演目によっては、堅太鼓および中ドロで「先打ち(あるいは前打ち)」と「後打ち」の組をつくり、掛け合いでうつ場合がある。後打ちがバチで太鼓の胴のみを規則的なパタンでくりかえしうつ間、先打ち(前打ち)は即興的で装飾的なパタンをうっていく。主導権は装飾的なパタンをうつ先打ち(前打ち)にある。場合によっては、両者がいれかわることもある。桂地蔵前六斎念仏においては、以上のような技法を適宜おりこむことにより、変化にとみ多彩な太鼓物の世界をつくりだしているのである。
〔写真17〕太鼓物
〔写真18〕太鼓物:〈四つ太鼓〉