今回の図書室だよりは、今年度前期セミナーの最後を飾る講座「書生節にきく流行歌の近代」に合わせ、書生節や演歌師たちの時代に焦点を当てて本を集めました。
書生節は明治初期に、書生(今でいう大学生)が作って歌った流行歌です。「書生書生と軽蔑するな、末は太政官のお役人」が元歌です。書生の多くは、地方出身で、高官や富裕層の家に寄宿し、立身出世を望んで学業に励んでいました。これらの歌は、1883(明治16)年頃から政治や社会に対する批判を歌詞に込め、街頭で歌うようになり、自由民権運動と結びつきを深めていきます。彼らの歌う歌を演説に変えた歌という意味から「壮士自由演歌」「壮士節」といいました。これが「演歌」の始まりです。
明治20年代後半になると、自由民権運動が勢いを失い、新しく普及しだした唱歌や軍歌に押されて、これらの歌は衰退しました。しかし、日露戦争の頃(明治30年代)、添田唖禅坊が、《ラッパ節》で成功を収め、「演歌」は再び隆盛の時代を迎えました。この頃に、《金色夜叉の歌》も生まれました。その旋律は、従来のかたい調子を改め、唱歌や軍歌など流行している歌を用いたもので、政治性よりも流行歌として性格が強くなっていきます。さらに大正時代には、職業化し、書生のいでたちで流し歩く芸人となり、「演歌師」と呼ばれる人たちが登場してきます。
今回は、大衆に受け入れられた近代流行歌の歴史とそれを支えた演歌師たちの世界を知ることができる本を集めました。 また音源資料では、今ではほとんど聞くことができなくなった演歌師たちの歌や壮士芝居の歌を収録した資料を紹介しています。
この機会に、街頭に立って、世相や風刺を歌った演歌師たちと、その系譜の世界を覗いてみるのはいかがでしょうか。
当センター所蔵の書生節・演歌師・流行歌関係の資料のご紹介
名称をクリックすると資料の詳細情報を見ることが出来ます。
● 『日本民衆歌謡史考(朝日選書164)』(園部三郎著、朝日新聞社、1980年) |
三味線の伝来から1960年代までの流行歌・俗謡を、「音楽者」の立場から歌詞だけではなく、音楽性の面から分析されています。譜例も多く掲載されています。江戸時代後期から昭和30年代までの、社会の変動の中で生まれてくる流行歌を通史的に概観することができます。 なお、この図書は1962年に発行されたものの再版で、補足と訂正が入っています。筆者はクラシック畑の人で、はしがきには「戦前から戦後直後の数年の間(中略)流行歌に対する偏見を持っていた。」「その偏見から脱却したつもりで流行歌を論じたのがこの本の初版である」と述べています。筆者は再版では「序章」を加えて現在の流行歌観を述べようとしていましたが、病魔との戦いの中での執筆で、未完のままこの世を去ります。 |
● 『演歌師の生活(生活史叢書14)』(添田知道著、雄山閣、1994年) |
著者は、演歌師の草分け的存在添田唖禅坊(あぜんぼう)の息子・添田知道です。自由民権運動の中から「演歌」は生まれました。この本では、演歌の発生から明治・大正・昭和をどう渡ってきたのか、演歌師の生活がどういったものであったのか、ということの概観をとらえています。演歌師の生活は、制度化された音楽史の中にはほとんど語られない生活史の断片です。しかし、だからこそ、当時の大衆の生活を映し出す指標にもなりえます。 |
● 『幕末のはやり唄「口説節と都々逸節の新研究」』(ジェラルド・グローマー著、名著出版、1995年) |
演歌が現れる前、幕末には流行歌のことを「はやり唄」といいました。このはやり唄が、文明開化を迎えた時代に、社会風刺などを歌詞に託した壮士節などに発展していきます。本著は、口説節と都々逸節を中心に、のちに演歌へと繋がる読売などの話も交えながら、幕末のはやり唄の歴史や庶民文化について考察しています。 |
書生節・演歌師・流行歌関係の資料
上記で紹介した以外の当センター所蔵の書生節・演歌師・流行歌関係の資料をご紹介します。 これらの資料は当センター図書室の閲覧室で閲覧が可能です。
図書資料 | |||||
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タイトル | 著者 | 出版者 | 出版年 | 請求記号 | 種別 |
明治時代の風俗:近代世相風俗誌集5 | 藤沢衛彦著 | クレス出版 | 2006.1 | 382.1||Ki||5 | 図書 |
坪内逍遙集(日本近代文学大系 ; 3) | 坪内逍遙 | 角川書店 | 1974.1 | 918.6||Ni||3 | 図書 |
“大道芸と見世物 (大系日本歴史と芸能 ; 第13巻) “ | 網野善彦 [ほか] 編 | 平凡社 | 1991.1 | A1||Am||13 | 図書 |
大道芸・寄席芸 (日本の伝統芸能7) | 大野桂 | 小峰書店 | 1995.4 | A1||Ni||7 | 図書 |
日本レコード文化史 東書選書124 | 倉田喜弘 | 東京書籍 | 1992.5 | B0||Ku | 図書 |
流行唄變遷史 | 藤澤衛彦 | 有隣洞書屋 | 1914.9 | B12.4||Fu | 図書 |
「はやり歌」の考古学 開国から戦後復興まで:文春新書171 | 倉田喜弘 | 文藝春秋 | 2001.5 | B12.4||Ku | 図書 |
近代歌謡の軌跡(日本史リブレット ; 54) | 倉田喜弘 | 山川出版社 | 2002.5 | B12.4||Ku | 図書 |
見世物研究 3版 | 朝倉無聲 | 思文閣出版 | 1991.1 | B14||As | 図書 |
見世物研究 姉妹篇 | 朝倉無声著 川添裕編 | 平凡社 | 1992.5 | B14||As | 図書 |
歌は世につれ シンポジウム 今日の大衆と音楽 | 小泉文夫[ほか] | 講談社 | 1978.8 | B14||Ko | 図書 |
見世物雑志 | 小寺玉晁 | 三一書房 | 1991.12 | B14||Ko | 図書 |
のせる 香具師の世界:芸双書9 | 南博[ほか]編 | 白水社 | 1982.8 | B14||Mi||9 | 図書 |
私は河原乞食・考:岩波現代文庫 文芸94 | 小沢昭一 | 岩波書店 | 2005.9 | B14||Oz | 図書 |
小沢昭一的流行歌・昭和のこころ(新潮文庫 ; お-18-15) | “小沢昭一, 大倉徹也” | 新潮社 | 2003.8 | B14||Oz | 図書 |
日本の放浪芸 | 小沢昭一 | 白水社 | 2004.6 | B14||Oz | 図書 |
放浪芸雑録 | 小沢昭一 | 白水社 | 1999.7 | B14||Oz | 図書 |
昭和流行歌史(一億人の昭和史 ; 別冊) | 毎日新聞社 | 1977.1 | B14||Sh | 図書 | |
流れ者歌謡考 | 新藤謙 | ブロンズ社 | 1971.11 | B14||Sh | 図書 |
日本春歌考(添田唖蝉坊・添田知道著作集 ; 5) | 添田知道 | 刀水書房 | 1982.1 | B14||So | 図書 |
音源資料 | |||||
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オッペケペーで有名な川上音次郎一座のパリ万博の様子を記録した音源や、香具師の世界を取材した音源などがあります。 | |||||
タイトル | 著者 | 出版者 | 出版年 | 請求記号 | 種別 |
甦るオッペケペー 1900年パリ万博の川上一座 | J・スコット・ミラー企画 | 東芝EMI | 1997.12 | CD | |
ドキュメント 日本の放浪芸 小沢昭一が訪ねた道の芸・街の芸 | 小沢昭一取材・構成 | ビクターエンタテイメント | 1999.12 | CD7枚組 | |
ドキュメント 又日本の放浪芸 小沢昭一が訪ねた渡世芸術 | 小沢昭一取材・構成 | ビクターエンタテイメント | 1999.12 | CD5枚組 | |
小沢昭一が招いた日本の放浪芸大会 | 小沢昭一構成・司会 | ビクターエンタテイメント | 2001.12 | CD3枚組 | |
明治・大正流行歌集 | 加藤雅夫[ほか] | コロムビア | [不明] | 田邉SP-L-4 | SP |