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伝音リレーエッセイ

第一回「noh.stanford.eduの見方」藤田隆則

 およそ8年前にはじめた共同研究の成果として、
Noh as Intermedia (https://noh.stanford.ed)が完成した。著者は、スタンフォード大学カプスシチンスキ氏、ローズ氏と私であるが、たくさんの方々の協力がなければ、完成にこぎつくことはできなかった。感謝もうしあげたい。

 せっかくなので、すこし見方の説明をしておきたい。
このwebsiteの売りは、まず、能楽をさまざまな要素(elements)に分解してしめした点である。もちろんこれまでにも、能の分解的(理論的)研究は数々行われてきた。だが、実際の映像と音をともなって諸要素が説明されたのは、おそらくはじめてである。

 次に、能の上演(plays)2番がまるごとあげられている点が特徴である。しかも、諸要素(elements)の動きがわかるような、詳細な楽譜をつけて、映像がすすむのである。今この瞬間に何がおこっているのか、およそわかる。

 上演を2番、撮影したことには明確な目的があった。同じ動きや同じ音のかたちでも、曲種によって大きく変化する。それを、対照させて示すことがねらいであった。能では、最小の単純な要素をもちいて、多彩な表現がおこなわれる。このことを明快に示すには、2番の対照が必須だったのである。

 最後に、われわれが目指したのは、nohをintermediaとして観察すること、いいかえれば、playの流れの中で、それぞれの要素がどのように発展していくか、要素間がどのように統合されていくか、を記述することだった。上演の中のそれぞれの部分(小段(shodan))には、intermediaの記述欄がある。そこには、楽器や歌や舞の時間的変化が、連動しながら、どのような効果を生み出すかについて、詳細な記述がある。

 効果に関しては、われわれが発見したところもいろいろある。たとえば、《半蔀》のクセでは、シテによる源氏、夕顔の女、惟光などの演じ分けに、音楽が効果的に作用しているなどといった発見は、演技者は、まったく意識しないことであろう。見る側からの発見でも、それが実際の観察にもとづいているかぎり、発信する価値はある。躊躇せずに書き込んでいった。

 詳細な記述をとおして、われわれは最後に、能をintermediaたらしめている「思想や美学」について語ることにした(noh as intermedia)。統合を支える「陰陽」の呼吸感、時間・空間・人物の性格の「曖昧さ」、「抽象」性、「位(くらい)」について、長い旅の最後に、思うところを記した。

 こうして、われわれの制作の旅はゴールを迎えた。細かな間違いもまだ見つかるかもしれないが、ゆっくり訂正していくつもりである。
《半蔀》と《小鍛治》、対照的な能2番を、お楽しみいただければと思う。

2018年8月22日スタンフォード大学図書館での制作会議(遠隔地のメンバーはウェブ参加)

2018年8月22日 スタンフォード大学図書館での制作会議(遠隔地のメンバーはウェブ参加)

2018年10月14日演技者を招き、いっしょに映像をみながら議論する(同志社大学にて)

2018年10月14日 演技者を招き、いっしょに映像をみながら議論する(同志社大学にて)

(藤田隆則 記す)

公開:2020年05月27日 最終更新:2024年08月08日

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