京都祇園祭り 北観音山の囃子

凡例

日本語要旨

0 はじめに

1 概況

2 担い手

3 曲目と旋律パタン

4 囃子の機会

5 楽器とその奏法

6 演奏の実際

7 口唱歌・譜

8 伝承過程

9 囃子の変遷と意味付け

10 北観音山における囃子の特色

謝辞

文献資料

音響資料

映像資料

英語要旨

 

 

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10 北観音山における囃子の特色

北観音山の囃子で最も興味深い事柄は、既に詳しくみてきたように、曲の転換が通りを単位として、大変詳細に規定されていることである。このようなやり方は、祇園囃子では他に類をみないものである。建築学の知見によれば、京都の通りにおける節(交差点・角)は、交通や脈略施設の結節点として、ファンクショナルあるいはフィジカルな側面と共に、シンボリックな意味をもっているとされる〔島村・鈴鹿他 1971:44-48〕。通りを単位とした曲目の規定は、こうした町空間を通りによって認識するという京都の人々の空間認識を、如実な形で体現したものといえよう。また、北観音山をはじめとする後の祭りの町内では、祭りおよび囃子自体をたのしむことを信条にしていることも特筆される。

音楽的な面からすると、テンポが速く、太鼓のバチさばきが細かくて小バチが多いのが、北観音山の囃子の特色であると担い手の人々はかんがえている。それゆえ、太鼓のバチさばきが細かいと、間合いをみてタイミングをあわせたり、ポイントをみつけていくのが難しい。また、笛も独自なところが多く、難しいという。笛の旋律パタンも同じものをそのままあてはめるのではなく、あてはめる曲目によって微妙な違いがあり、それをおぼえないといけないからである。したがって、北観音山の囃子は独自なところが多く、とても難しいと担い手の人々は認識している。

また、祇園祭りの他町の囃子と比較とすると、鶏鉾および函谷鉾との共通点がいくつかうかんでくる。たとえば、曲目のあり方に対する認識こそことなるが、つなぎの囃子(フレーズ)をふくめて曲目が2曲で1つのグループ(曲目のグループ)をつくっていること、譜本の表記法、次にはやす曲目を伝達する方法等である〔田井・増田 2000、2004〕。特に笛の旋律パタンは、鶏鉾とは大変にている。これは鶏鉾の笛方が、当時後の祭りであった北観音山に応援にきていたことに由来する。

さらに、他所の囃子との関連では、京都の祇園囃子を受容した、三重県伊賀市の上野天神祭りの祇園囃子との系譜的な関連が注目される〔田井・増田 2001、2005b、増田 2005〕。曲目の構造および譜の表記法などの点で共通点をもち〔田井・増田 2004:227〕、前述のように北観音山の人々も、〈三番叟〉などの曲目の構造的な一致を認識している。一方で、鶏鉾や上野天神祭りには共通している、太鼓のバチを太鼓の上方で交差させる身体動作は、北観音山にはみられない。いずれにしても、鶏鉾・函谷鉾をはじめとする京都祇園祭りの各囃子、さらには上野天神祭りなどの京都の祇園囃子を受容した囃子との詳細な比較検討が、今後の課題となろう。

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