5 楽器とその奏法
種類・編成
使用する楽器は、鉦(摺り鉦)、太鼓(短胴枠付き締め太鼓)、笛(能管)である。鉾の上の囃子および山鉾巡行時の編成は、鉦8、太鼓2、笛
9(多くの鉾では欄縁に8であるが、8番は柱の後ろでほとんどふけないので、菊水鉾では横にもう一人おいている。鉾の中は7程度)である。
鉦は合金製の摺り鉦である。寸法は、凹部直径18.7センチメートル(内径15.3センチメートル)、凸面直径16.5センチメートル、厚さ5.2センチメートルである。銘は「菊水鉾 昭和四十五年六月吉日」である。鉦は、上部の突起左右2点をとおした紐でつりさげ、それを鉾の桁からたらした布にむすびつける。上部の紐の両方を左手で保持する。右手にもったカネスリとよぶ 角(つの)撞木で、鉦の凹面をうつ。
カネスリの柄は10年程前まではクジラの髭製、頭の部分はシカの角製であったが、現在柄は樹脂製のものが多くなっている。その寸法は、長さ 31.7センチメートル、柄の幅1センチメートル、頭の直径3.2センチメートル程度である。鉾の上の囃子および山鉾巡行時には、奏者のカネスリをもつ手の甲には長い房をとりつけているので、カネスリをうごかす度に房が上下し、一つの見せ場となる。 鉦・鉦の房共に財団持ちであり、カネスリは個人持ちである。
〔写真6 〕鉦とカネスリ
太鼓は短胴枠付き締め太鼓であり、2個1組で使用する。これを向かい合わせになるように木製の台の上にまっすぐ設置し、太鼓方2名がそれぞれ2本の木製のバチでうつ。なお鉾の上ではやす際には、木製の腰掛を使用する。太鼓の大きさは、直径 35センチメートル(内径25.5センチメートル)、鼓長15センチメート程度である。バチはヒノキないしはホオノキ製で、寸法は長さ31センチメートル、直径2.7センチメートルである。 太鼓の締め方は、胴でおもいっきりしめる胴締めである。他町でも時々みられるような首尾(右前方の調べ緒の結び目を上にとびだたせるやり方)は、俗に「チンポ立て」といい、調べ緒の装飾的な処理の仕方である。 太鼓ならびに腰掛けは財団所有で、バチは個人持ちである。太鼓方のリーダーをシンとよび、もう一方を「助太鼓」とよぶ。なお菊水鉾では、三位一体論のシステムの導入から、太鼓方が特定の人とペアをくむということはない。
〔写真7〕太鼓
笛はすべて能管である。山鉾巡行時には、細長い装飾布(かつては笛袋およびその房)を腰の角帯から下にたらす。笛ならびに笛袋は個人所有である。
編成
巡行時の楽器の配置は、正面に太鼓方、進行方向右側の欄縁に鉦方、左側の欄縁に笛方である。正面真ん中に稚児人形(菊慈童)が鎮座するので、太鼓方は人形の左右にわかれて後ろ斜め向きにすわる(写真3参照)。
太鼓のシンの位置は進行方向左側(笛の側)であるが、これは笛との連繋性があるからである。
配置
前述したように、巡行当日の囃子方のはやす区間や鉾内の位置(巡行する場所毎に、細かくきめられている)は、出席日数・技量・会運営への貢献度等を加味して、公正な形での判断が囃子方
総代によってなされている。その際には、ヴェテランと新前のバランスをとる。特に鉦・笛共、前から1・2・3・7・8番には、ヴェテランを配する。その結果、巡行の出発から、四条通り・河原町通り・御池通り・新町通りまでの鉦の席合
計32席、太鼓の席8席、笛の席32席をめぐって、囃子方はできるだけ良い席にえらばれるよう(その頂点は渡り囃子をはやすことのできる四条通りの欄縁の指名である)、練習にはげむことになる。この方式により囃子の質の向上がはかられている。
奏法
鉦はすべて凹面をカネスリでうつ。その奏法には、1)凹面の真ん中打ち(後述する口唱歌では「チャン」と表現)、2)縁の下部をうってからカネスリを上にはねる、いわゆる跳ね打ち(「チ」および「チン」)、3)縁の上部打ち(「キ」)の3種類がある(菊水鉾の「チン」では、他所でよくみられる、縁の下部をうってからカネスリを下方にはらう、いわゆる払い打ちはおこなわない)。これらがくみあわさって、「チャンチキチン」といったパタンがうみだされる。
〔 写真8〕鉦の打ち方
太鼓ではバチ先が重要であり、手首がまがっていると、太鼓をするようなべたっとした打ち方になる。「テン」「コツ」という音が必要である。その奏法は9種類ある。基本的なものは、「 大バチ」、「中バチ」(大バチが3つづく時、真ん中で気分的にうつ)、「小バチ」(特殊なものが、細かいトレモロ奏法の「キザミ」)である。音の表出に関するものとしては他に、「すりバチ」がある。また、振りの美しさをみせる装飾的な動作のものとして、「抱えバチ」(左の腕が右の頬の下にいく)、「飾りバチ」(バチを右斜めに、対角線上にふる)、「振りバチ」(バチを左右にふる)、「構えバチ」(太鼓の上でハの字をつくる)、「押えバチ」(バチを革面におさえつける)がある。特に、大バチ・小バチの違いをはっきりさせる事が肝要とされ、両者をはっきりうち間合いをきめることでメリハリができ、囃子がのってくる。太鼓をうっていて楽しいのは、〈地囃子〉と〈流し〉であるという。シンの者が自分の考えで、打ち込みをかえていけるからである(たとえば、キザミで音量をましていく、キザミに打ち込みをくわえるなどで、打ち込みのやり方に5パタンあるという)。
〔写真9〕太鼓の打ち方
笛の調子には通常高い調子と低い調子がある。以前は混在していたが、昭和63年(1988)頃から、なるべく高い方にそろえるようにしている。笛の奏法では、息を一気にださずに、一息を滑らかに一定にふくことが肝心である。また、喉首をしぼるような姿勢でふくと、息のため込みが少なくなって息継ぎが多くなり、その結果テンポが速くなりがちになる。
〔写真10〕 笛の吹き方
笛の装飾的技巧として、左手中指を息継ぎの直前で瞬間的にあげるもの、また歌口から第4孔の指の押し上げ(「ヒャイ」)などがある。さらに、「ララロロ」のように同じ指遣い(音)がつづく際には、歌口から第1孔などを瞬間的に開閉して音をきるものもある。
鉦は打ち方、太鼓は大・中・小バチの打ち分け、笛は持ち方、指遣い、息の入れ方・はき具合、これらの基本ができていればきちんとした囃子がはやせるとされる。