上方座敷歌は、近世邦楽として発達した三味線音楽の一つと考えられる。芸妓の奏でるさんざめきと脂粉の香り漂う色里。昭和初期の大阪市西区新町には、西鶴や近松が描いた燗熟した廓 文化の名残をとどめ、色々な芸能が数多くの芸妓達によって保持されていた。
私は幼き日、この稀なる好環境に恵まれて育ったので三味線音楽、特にお茶屋の座敷で奏でられる芸能に極めて自然に親しみを持った。
その様なところから上方座敷歌の研究にとりくんだ。
ひとくちに上方の座敷といっても遊里は新町だけではない。指折り数えても京都の祇園、先斗町、宮川町、上七軒など。大阪でも堀江、南地、曾根崎、南陽、今里など枚挙にいとまがない。その上、お座敷という胃袋は、三味線にのりさえすれば、どんなジャンルの音楽でも消化してしまう。どこからどこまでを座敷歌としてとりあげるのか定義づけが困難である。
そこで、ベテランの二人の芸妓"万寿"さんと"はん幸"さんに相談して、とりあえず下記の座敷歌を録音。音源と歌詞を確保した。
歌詞の解釈については、いろんな角度から精力的に調査するつもりだが、そこまでは残念ながら期間内には手が廻らなかった。
尚、座敷歌の性格上、数多くの破礼歌も含まれるが、それらについては暗喩や比喩まで詳釈するつもりである。
井澤壽治
このアーカイブについて
- (1)このアーカイブは、故・井澤壽治氏による研究成果(2000年度特別研究「上方座敷歌の研究」、2001年度委託研究「上方座敷歌の研究―その背景と暗喩について―」)を編集して公開するものです。
- (2)研究成果の現物は、文字資料(曲名・歌詞・解説・語釈)と音源資料(オリジナル演奏およびその他の収集録音)で構成されており、いずれも当センター図書室で、閲覧および試聴が可能です。
- (3)研究成果を当アーカイブに掲載するにあたって、あらためて表記の統一をはかり、掲載順序の変更を加えたほか、必要最低限の誤記の修正、音源の取捨選択等も行っています。
- (4)2016年、研究成果のより多角的な公開を目的とし、東洋書院より『座敷唄集成』(故・井澤壽治編、久保田敏子序文)が刊行されました。同書は、このアーカイブの文字資料を補訂し、関連する資料や挿絵を追加し、音源資料を収録したCD-Rディスク(mp3形式、パソコン再生)を添付しています。序文に研究の経緯も掲載されていますので、ぜひあわせてご覧下さい。
(アーカイブ編集担当者: 東 正子・上野 正章・竹内 有一)
備考
- (1)音源資料の出典は、(A)井澤壽治社中によるオリジナル演奏、(B)演奏会等のためのリハーサル録音、(C)レコードからの録音の3種類があると推定される。原資料には出典が明記されていないので、推定に基づいて、(A)と(B)の音源を当アーカイブにおいて公開した。(A)と(B)の区分は、はっきりしない点も多く、現時点では当アーカイブ上に区分を補記しないので、ご了承いただきたい。録音時期、録音場所等も、原資料に明記されていない。
- (2)(A)の演奏者は、大阪在住とみられる女性演奏家(芸妓)の2名であると推定される。原資料によれば、
歌と三味線 後藤明子 (万寿)
歌と三味線 高橋宮子 (はん幸)
である。成果物において、この2名に関して補記されるのは、アーカイブ冒頭の解説文のみである。
なお、原資料には、「歌と三味線(十二月のみ) 成世昌平」という表記があるが、それに該当するとみられる音源資料は、成果物には含まれていない。
- (3)(B)の演奏者は、(A)と同じ社中によるものがほとんであると推定されるが、そうでないとみられるものも含まれる。識者からのご教示をお願いしたい。
- (4)当アーカイブ掲載の歌詞は、監修者(井澤氏)が書き留めた文字資料に基づいている。歌詞表記の典拠は明記されていないが、必ずしも、音源資料と同じ演奏の歌詞を書き留めたものではない。したがって、アーカイブに表記される歌詞と、音源で聞き取れる歌詞には、多くの相違があるので、ご了承いただきたい。
(竹内有一)
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