京都市立芸術大学

日本伝統音楽研究センター
所報

第1号 2001年3月

現在・将来の研究テーマについて

田井 竜一

 私は近年、オセアニア、特にソロモン諸島の音楽芸能と日本の民俗芸能の研究を、車の両輪のようにしておこなってきました。日本の民俗芸能の分野では、近畿地方を中心にして、山車祭りの囃子の研究にたずさわってきました。日本各地には実に様々な都市祭礼としての山車祭りがあります。そして、そこでは囃子が重要な役割をはたしているにもかかわらず、一部の例外をのぞいて、本格的な研究はおこなわれてきませんでした。たとえば、有名な京都、祇園祭りの祇園囃子についても、採譜集はあるものの、基本的な事柄は必ずしもわかっていません。

 こうした状況をふまえ、私は各地の行政調査に従事しながら、山車囃子の音楽民俗誌を作成することに精力をかたむけてきました。山車囃子についてかたるためには、まず曲目・囃子の機会・楽器・口唱歌(譜)・伝承過程といった基礎的な情報を収集し、それを体系化して示すことが何よりも大事なこととかんがえたためです。具体的には、京都府亀岡市の亀岡祭りを皮切りに、大津祭り、大溝祭り(高島町)、長浜祭り、日野祭り、水口祭りといった滋賀県各地の山車祭り、さらには祇園祭りをはじめとして、園部町、丹波町口八田、瑞穂町質美といった京都府下の山車祭り、および伊賀上野の上野天神祭りの各囃子の調査研究をおこなってきました。現在は、京都、祇園祭りの調査を継続すると共に、水口祭りのさらに詳細な調査とCDブック形式の報告書作成事業に参画しています。

 山車祭りは、音楽芸能のみならず、美術・工芸・建築など様々な分野が複雑にからみあう、いわば総合芸術です。一方でそれぞれの地域社会にねざしたものですし、さらに歴史的な蓄積の上になりたっていることから、民俗学や歴史学の見地も必要となってきます。つまりその解明には、学際的なアプローチが必要となってくるわけです。そこで、センターでの共同研究の一環として、私が研究代表者になり、「山車囃子の諸相」という研究テーマで共同研究を実施することにしました(本報「センターニュース」p. 30参照)。上述の理由から、音楽学の研究者だけではなく、芸能史・歴史学・民俗学などの専門家にも参加していただくことにしました。これにより、山車祭りおよびその囃子について、新たな知見がえられることと期待しているところです。なお、その成果は公開講座や報告書の形で将来公開できたらとかんがえています。

 今後の課題ですが、先程ものべたように、センターのお膝元である京都、祇園祭りの囃子については、まだまだわかっていないことが多いというのが実情です。現在、毎年1ヶ所ずつ調査をすすめていますが、全体像の把握には相当の時間が必要となりそうです。また、山車祭りとしては一番長い歴史をもつものですから、音楽図像学的なアプローチによる歴史的考察も重要になってきます。その意味で、祇園囃子研究は私のライフワークになりそうです。

 一方、その目途がたった段階で、「祇園囃子の系譜」をさぐるプロジェクトをたちあげたいと構想しています。京都の祇園囃子があまりに有名であるために、私達はそれが全国に伝播・分布したとかんがえがちですが、実はその直系は上野天神祭り、大津祭り、亀岡祭りといった、いずれも京都近辺の4ヶ所しかありません。幸い私自身これら4地域を全て調査する機会にめぐまれましたので、これらの地域が京都、祇園囃子のどの部分をそのまま受容し、どの部分をかえていったのかといった点について、比較研究をおこないたいとおもっています。また、これはもしかすると永遠の課題なのかもしれませんが、なぜ祇園囃子が他の地域には伝播しなかったのか、という点についてもかんがえてみたいものです。

 いずれにしても、山車祭りの囃子に関してはやるべきことは山積みという状況ですが、日本伝統音楽センターという、この種の調査研究をおこなうには大変ふさわしい場所で、様々な皆さんのご協力をえながら、少しでも成果を蓄積できていけたらとおもっています。

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公開日:2001.10.01
最終更新日:2001.10.01
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(C) Research Centre for Japanese Traditional Music, Kyoto City University of Arts