京都市立芸術大学

日本伝統音楽研究センター

Research Centre for Japanese Traditional Music

Kyoto City University of Arts

公開講座

平成13年度第1回公開講座「現代邦楽への招待」

現代邦楽の成立と発展 〜箏と尺八の作品を中心に〜

 今年は,宮城道雄の考案による十七絃箏が発表されてから,ちょうど80年の節目にあたります。十七絃箏は,宮城が理想とした新しい時代の音楽創造のために, どうしても作りたかった低音用の楽器でした。そして,邦楽が開発しなかった低音域での音楽表現を,歴史上はじめて試みた楽器となりました。

 十七絃箏誕生の前年,1920(大正9)年には,宮城と作曲家本居長世の作昌発表会が,尺八演奏家吉田晴風によって「新日本音楽大演奏会」と名付けられ, それ以来,「新日本音楽」ということばが,邦楽界の新しいジヤンルの代名詞となりました。音楽運動と呼んでもいい「新日本音楽」には,主として,箏,尺八の演奏家・作曲家が積極的に参画しますが, その流れはひろい河岸段丘を形成し,そこに箏属や尺八が主役をとる作品と演奏家が,見事な層序をみせています。

 その中で十七絃箏は,音楽構造の根幹に深くかかわり,その演奏史と作品歴,さらに十七絃製作史は,そのまま「現代邦楽」事情を物語っていると申せましょう。その例として, 十七絃箏誕生から約30年後の三十絃箏,約50年後の二十絃箏,70年後の二十五絃箏の誕生があげられます。以下,「新日本音楽」から「現代邦楽」に至る80年の展開を,箏(十七絃)と尺八を中心に概観し, キヤプション付けを試みてみることにいたします。(東京を中心とした記述であることをご了承ください)

(1) 1920年〜1945年[新日本音楽]

◇洋楽の導入と多彩な合奏(歌からの解放と器楽曲)
独奏曲,四重奏曲,協奏曲,洋楽器との合奏
◇楽器改良と新楽器誕生
十七絃箏,八十絃箏(ともに宮城道雄),七孔尺八(川本晴朗),九孔尺八(柴田聖山),オークラウロ(大倉喜七郎)
◇革新的な作曲家の輩出
宮城道雄,中尾都山,星田一山,久本玄智,町田嘉章,中能島欣一

(2) 1946年〜1963年[新邦楽],[現代邦楽],[創作邦楽]

◇行政とマスコミの取組
文部省主催 芸術祭 開始
NHKラジオ「現代邦楽の時間」
邦楽コンクール(1962年まで)
NHK邦楽技能者育成会開設
NHKと民間放送の芸術祭ラジオ部門参加作品
◇演奏家輩出と委属活動
鈴木嘉代子「洋楽人の作品による現代箏曲のタベ」邦楽4人の会,箏「泉」会,民族音楽の会
◇新楽器誕生
三十絃箏の発表(宮下秀洌)

(3) 1964年〜1980年[現代の日本音楽]

◇NHKの現代邦楽番組
NHKラジオ「現代の日本音楽」開始(1972年3月まで)
◇脚光浴ぴる十七絃箏と尺八
牧野由多可,唯是震一の十七絃箏独奏曲とリサイタル(菊地悌子)
諸井誠,堀井小二朗,山川直治,廣瀬量平,杵屋正邦,武満徹の尺八作品
◇演奏団体誕生と合奏曲志向
創作邦楽研究会,日本音楽集団,さわらぴ会,尺八三本会,宮城合奏団,箏「波の会」,札幌・新音楽集団「群」,沢井忠夫合奏団ほか
◇現代邦楽の音楽家たち
邦楽・洋楽の演奏家と作曲家の交流,洋楽系作曲家の大量進出
◇リサイタルと演奏家の作品
リサイタル活動の活発化,現代邦楽演奏家の作品発表
現代邦楽作曲家連盟結成
◇新楽器誕生
二十絃箏の発表とリサイタル(野坂恵子)

(4) 1981年〜

◇劇場の主催事業
国立劇場主催公演「現代日本音楽の展開」(1997年まで)
国立劇場作曲コンクール創設
紀尾井ホール主催公演「現代邦楽・創造の軌跡」開始
◇新楽器誕生
二十五絃箏の発表とリサイタル(野坂恵子)
◇演奏団体誕生
現代邦楽研究所創立
創邦21結成(創作邦楽21世紀の意)
◇改めて…現代邦楽
邦楽器作品の日常化と静かな回顧
◆復元古楽器と声明の作品(1981年〜)
石井眞木,一柳慧,菅野由弘,高橘悠治,武満徹細川俊夫ほか

長廣比登志 作成

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公開日:2001.12.14
最終更新日:2001.12.14
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